日々帳

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映画の感想 - ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー

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スターウォーズシリーズの中でファントム・メナスが好きと言ったところ、ファンのひと二人に全力でダメ出しされた過去があるので、SWシリーズについては分かってないオーディエンスであることを重々承知しつつ、今作も感想を書くつもりはなかったのですが、実際新作ローグ・ワンを見たあと思うところがいろいろとあったので、結局筆を取った次第です。

本作はスターウォーズシリーズでも、いわゆる外伝にあたる物語。エピソード4(一作目)の直前にあったもうひとつのストーリーということで、シリーズ見ている人なら、ああこれがあれにつながるのかなど思えて楽しいと思いますし、逆に全く見てない、今から過去7作見たいってほどでもない、っていう人でも、独立したお話なので、充分楽しめると思います。

むしろこの作品がとっかかりでもいいんじゃないかな。そこからep4「新たなる希望」を繋げて見てもいいかも。希望つながりで。ただスターウォーズのもつ話のリズムみたいなのはちょっと違うので、往年のファンの評価はどうなのかなと、個人的には心配していたりします。

というのも私は、監督が好きで見に行ったというのが大きくて、好きなものには厳しい見方をしてしまう傾向ゆえ、予告から「あれっ地味なんじゃない?」「この人、お話のテンポづくりは上手くないけど大丈夫なのかな」「キャラクターとかあまり立たせて描く人じゃないんだよなあ」と、もう心配で仕方なかったのでありました。

その代わり、絵の見せ方は抜群にうまいギャレス監督。今回もそこは裏切らず、終盤のシールド攻防戦はじめアクションシーンは本当に素晴らしかった。

で、実際見て感じたことを書き留めておこうと思うのですが、この先は内容にふれていくので、まだ見てなくてネタバレされるのが嫌な人はそっ閉じしてください。

血の礎

たぶんこの種類の人は、ローグ・ワン好きなんじゃないかなあと思うのが、歴史好きな人です。人物など物語の近影を描くことより、遠影を描くことに長けている作品かもしれない。スターウォーズはキャラクターの物語である面も大きいと思いますが、今回そこは逆転しています。

物語のハイライトとなる惑星スカリフでの攻防戦は、他にも適例がありそうですが、カエサル率いるローマ軍に包囲されたウェルキンゲトリクスが、友軍の到着を知る場面を彷彿とさせます。強大なローマ軍に対して、不満はあるものの逆らうことはできず耐えていたガリアの人々が、ウェルキンゲトリクスの闘志にほだされて蜂起する。もちろん、その結果が甘くないことは、歴史のみならず本作でも示されています。

また終盤の殲滅戦とも言える退路のない戦闘は、フランス革命のときテュイルリー宮殿を守ろうとしたスイス人傭兵の、約600余名全員が戦死した逸話をも思い出します。スイス人傭兵たちは王党派ですから反乱軍とは立場がちがいますが、マサダの砦でローマ軍に抵抗し続けたユダヤ*1や、日本においては島原の乱の籠城軍などでも例になるでしょうか。

こういった歴史の犠牲をどう描くかということには評価も分かれそうですが、誰しも生きるために戦ったのであり、生存者だけが歴史を作ったのではない、次の時代を目にすることのできなかった人々もまた歴史を作りあげた一員であったのだと、その存在を掬うようであります。

歴史の波にかき消された、名もなき人々の生き様を描いた今作。貴種流離譚であるスター・ウォーズ正史とはまったく異なるわけでして、神話たるこれまでのシリーズとはまたちがった表情をもっているスター・ウォーズ外伝なのでした。

人間の業とキャラクター造形

クラッシックのシリーズって一作をのぞいてわりと大団円で、それでもドラマ性を感じさせるのは、人の業をきちんと描いているからだと思うのですよ。嫉妬や傲慢さや、あるいは「親殺し」にまつわる、父親の喜びや哀しみ。本作で人間のドラマ性が薄めだったのは、人によっては残念な印象を持つかもしれない。

とはいえ全く人間ドラマが描けてなかったわけではなく、おそらく物語の中で心理描写を深掘りされているのが、反乱軍将校のキャシアン。物心ついたときから反乱軍に育つ者もいると話す彼は、何が正しくて何が間違っているのか、その判断を自分でもたない存在として登場します。

冒頭に「目的のためには非情な殺しも厭わないぜ」的な場面があるのですが、ジンに付き添うことになり、彼女の父親を殺すよう密命を受ける流れは、この先、彼女に感情移入していくことで芽生える倫理観により、葛藤を余儀なくされるのだな、という予兆に満ちていて良かったです。

おもしろロボット枠が減っていたことに不満の声も見られましたが、代わりにドニー・イェンチアン・ウェンの二人が活躍をしておりました。黒澤監督の「隠し砦の三悪人」に影響を受けたと言われるスター・ウォーズですが、その中の太平と又七がC-3POR2-D2であるわけで、本作でのその役がドニー・イェンチアン・ウェンということなのだろうと思うのです。

とくにドニー・イェンの戦闘シーンのキレはすごかった。それだけに、表面的な華やかしではなく、もう少し物語に絡んだ狂言回しであってほしかったな。中国市場を意識した配役かなと思う一方で、チベット人っぽいところがいいですよね。

なんだかんだ言って、とても満足したことが、感想を書いていて気がついた点です。

追記

ギャレス監督、撮影やり直しでトニー・ギルロイに撮り直してもらったそう(しかも後半)。おいおい。ゴジラも前半モタモタで後半どっかーんだったので、そのパターンかなと思ったけど、そもそも撮り直し! なんでも今回は実験的な手法で撮ろうと試みたのが裏目に出たんだとか。

町山さんの「ムダ話」では、ホープとフォースをかけつつ、失敗率97.6%のミッションをローグ・ワンの製作とかけて、奇跡を信じたギャレス監督にフォースが宿ったのだ的な解説をされていましたが、優しいですね。

私もどんな低評価の作品でも(美術展でも)面白いと思ってしまうので、見る目ないのかなとよく思うのですが、(ローグ・ワンで思い出したのがキングダム・オブ・ヘブンで、これもそんなに評価は高くない作品なのだ。私は好きなんだけど)、なんでもきちんと褒めれる町山さんを見習おうと思いました。

*1:これは集団自決だからちょっと違うかな。でも血が絶えるということが恐ろしく感じたのです。