日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

映画の感想 - シン・ゴジラ

すごい面白かった。
見終えたあと、後ろの席の人が開口一番に言った言葉が「なるほどね〜」だったのとか、ほんと良かった。

ゴジラにネタバレも何もないんですけど、ストーリーにあまりふれず感想をば。

もうさんざん言われてますが、エヴァンゲリオン好きな人は、始終にやにやしながら見れる。私はTV版のアニメと、テレビで一挙放送した時に見た劇場版アニメくらいしか嗜んでないんですけど、それでも「ああエヴァだなあ」と思うところがたくさんありました。

たとえをあげるとすると、今回役者として関わっている塚本晋也監督も言っていたのですが、「日常に非日常がある」というのを徹底的にやってるところ。見慣れた風景を巨大怪獣が破壊していく光景とか、従来の怪獣映画でもお約束ではあるんですが、これまでの「名所を次々に破壊」とはまたちがった生っぽさがありました。

逆に、そっか、エヴァの魅力って「日常」(強くもない等身大の主人公)が「非日常」(理不尽)に侵される不気味さだったんだなと思ったりして。あ、あと市川実日子さん可愛かったです。私はこっち派です。

エヴァっぽさ」とは別に、もうひとつ思うのは、随所にある怪獣映画へのリスペクト。破壊シーンばかりの言及になってしまいますが、「…超えてきたな」という感じあって、すごかった。

特撮好きな人で見に行かない人はいないと思うけど、それでもあえて言うと、立ち上がって叫びたくなるほど素晴らしいシーンばかりなので、これから見に行く人は楽しみにしてください。

私好きなシーンは、北品川と多摩川でのヘリが臨戦態勢に入るところです。ゴジラとヘリと向かい合って、ぐーっと俯瞰になって、IMAXで見てよかったと思いました。あとは炎のシーン。すごい悲しく美しい音楽が重なって、なんかこう印象に焼きつく場面でした。

予告の時はゴジラの姿ばんばん見せてて、ひそかに「ゴジラ見せすぎ問題」と呼んでいたんですが、それ以上にすごいシーン盛り沢山なので、見せても問題なかったんや、と思い直しました。

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最近、スキャンするのが億劫。

ここからは少しテーマにふれます。

ゴジラといえば、社会批判性は初代ゴジラから通底してあって、(エメリッヒ・ゴジラは一旦忘れて)ギャレス・ゴジラまで続く伝統だったと思うのですが、その点もしっかり引き継いでいます。もちろん根底にあるのは「反核」で、一応絡ませたという感じのギャレス版より、曖昧にせずに描いてましたね。

これまでゴジラシリーズで描かれてきた「人間と科学の傲慢さ」*1という主題はいくらか薄れましたが、日米安保に依存せざるを得ない中で、どう主権を自分たちのものにしておけるか、という模索があって、今の時代の問題点をぼやかさず描いたところはすごい。

面と向かって抗えずも水面下で画策したり、宗主国と属国にちかい二国の複雑な力関係を描いている点では、普遍性があるのではないか、つまり、もうあと何年後かに見ても見応えのある名作のひとつに数えられるのではないか、と思います。

終盤「ゴジラとともに生きていかなければならない」というセリフには、思わず唸ってしまう。別の見方をすれば、それは私たちが手放すことのできない武力の象徴でもある。(怖れが存在する世界からは武力が消えることはない)

そんなわけで、迫力ある画面…海外にも通用するかも!と思いながら見てたけれど、途中から、アメリカでは無理だな…と思い直したり。むしろヨーロッパではウケが良いかも。ハリウッドに仇で返しちゃったかな。でも初代ゴジラと同じく、日本にしか作れなかった作品だと思います。

いちばん書きたいことが後回しになりましたが、見ていて思ったのは、これ岡本喜八監督の影響めいっぱいあるでしょ! と。群像劇であったり、会議の場面が矢継ぎ早に切り替わったり、字幕の説明をバンバン入れてきたりする。エンタメ作品でよくやったなあ。でも逆にそれが新しさに感じられて、よかったです。

この手法ってかなり冒険だったんじゃないかと思います。政治的な駆け引きが主になって、情緒的な場面があんまりないんですよね。だからお涙頂戴かけらも入らないし。でも感想見ていると評価は高いみたいなので、庵野監督の寄り切り勝ちといったところでしょうか。

とくに上層部と中間層・現場指揮官の空気の差からは、「激動の昭和史 沖縄決戦」が思い出されます。ただ「沖縄決戦」ほど両者は対立はしてなくて、本作の方が、お互いのかけ離れた状況をすり合わせようとする努力があるのですが。

シン・ゴジラ』は、「エヴァ」×「ガメラ2 レギオン襲来*2」×「激動の昭和史 沖縄決戦」って感じでした。濃密! それをもっとギュッと濃縮して一言で感想を言うと「なるほどね〜」になるのかもしれません。ふむ。

岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」「激動の昭和史 沖縄決戦」は池袋の新文芸坐で8月に上映予定です。

シン・ゴジラの、前後の説明なく、字幕の補足だけで上層部会議会議、それが現場に降りてくると…という情報量の多さに快感を覚えた人には、おすすめ。

*1:「人間と科学の傲慢さ」:ギャレス監督のゴジラは、平成ガメラ三部作を引き継いでいるのではと思うのですが、ともに怪獣と人間のふれあいが感じられ、初代ゴジラにも人間に追いやられるゴジラの哀愁がどこか感じられます。今回は主題が違うので仕方ないのですが、そこがこれまでのゴジラとくらべて異質な作品でもあるかもしれません。

*2:パニック映画&自衛隊大活躍な点で、近い気がします。「巨大レギオン、最終防衛ライン突破します!」