日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

映画の感想 - あの日のように抱きしめて

前にべつの映画でbunkamuraザ・シネマに行ったときに、予告編で面白そうだったので、公開を待ってみてきました。ヨーロッパ映画で、ハリウッド映画みたいな分かりやすい結末ではないけれど、個人的にはおもしろかった。

1945年ドイツ。アウシュビッツから生還したものの、顔に大きな傷を負い手術を受けるネリー。ベルリンで夫の行方を探すが、友人のレネは、彼は裏切ったのだと引き止める。やがて夫と再会したネリーだったが、夫は変貌した妻に気づかず「妻になりすまして遺産を山分けしよう」ともちかけるのだった。

歴史的事件によって壊れてしまった夫婦の愛を、ふたたび取り戻したいと願うネリー。夫の打算的な提案にのりながらも、彼の口から妻の話を聞くとき、かつての自分がそこに生きていることを感じる。

結婚した相手と、もう一度恋をする。夫婦の二度目の恋は、初めの恋より複雑になって、すこし苦い。予告編ではそんな印象だったけれど、実際はもう一味ちがった。

この映画の原題は「phoenix」で、おそらく映画のテーマは「再生」だと思う。

戦争が引き裂いたすべてのもの。友人レネもまた多くを失って、再生の道を模索している。憎しみを糧に進もうとしながら、その空虚さに気づいていくレネ。ネリーにともに歩んで欲しいと思っているけれど、彼女は過去の日々を忘れられない。二人の心のすれ違いも切ない。

鑑賞者の心は主人公ネリーとともに、やがてひとつの謎へと引き寄せられていく。夫は本当に彼女を裏切ったのか、それともそれは不幸な事件だったのか。

時間は前にしか進まない。深夜の駅に過ぎ去っていく貨物列車に、その気づきが象徴されている。
ジョニーがこだわった赤いワンピースにも、演出上の意図がある。「スピーク・ロウ」を歌うとき、彼女は炎の中からとびたった。その炎は、怒りであり、悲しみであり、愛ゆえに身を焦がした炎だった。

最近読んでる本に、エスキモーは雪に関することばをたくさん持っていると書いてあったけれど、エスキモーと雪は、その小説と死との関係によく似ている。そんなことを考えてたので、女性と恋愛に対しても同じことを思った。恋愛にも相手との関係性とか時期によって、ことなる色や匂いがある。

女はなんでラブストーリーが好きなんだとよく言われるけれど、そういうことかなと思う。はじまりの時期、終わりの予感、失った線をなぞる行為、愛への感性。愛と歴史的喪失からの再生を描くこのストーリーは、ある時期の人にとっては、必要になる物語なのだと思う。