日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

心理トリックの世界 :: ディスカバリーch

「読心術師」キース・バリーが伝授する「心理トリックの世界」。この辺もともと興味があったりしたので、まとめ的にメモ。

http://japan.discovery.com/series/index.php?sid=958

キース・バリーの「読心術」を会得するのは簡単ではなさそうだけど、その方法はざっくり大別できるように思った。
もちろん彼はすべての手口を見せているわけではないので、あの番組で見る限りにおいて、だけれど。

記憶力

読心術師キース・バリーがその抜群の記憶力を見せつける場面がある。たった二時間で、車の販売店で300冊以上の資料を読み、店にある車の情報をほとんど全て覚える。店の営業マンが好きな車を一台選ぶと、営業マンの選んだ車について、書類を見ずに詳細な情報を次々と当てていくのだ。
番組では記憶力をアップする方法を紹介する。ただ丸暗記するのではなく、語呂合わせや連想を用いて、感覚的に覚えていく。なんの意味も持たない数字の羅列も、数字を単語に置き換えることで、覚えやすくするのだという。

記憶術#数字子音置換法 - Wikipedia

それを二時間の間に行うのだから、素人が真似して、容易ではないことはすぐに分かる。思うに、書面に目を通したわずかな間に、語呂合わせや連想を用いて視覚で覚えられるものに変換する作業が、ほとんど反射的にできる人なのだろう。

知人に方向感覚にやたら強い人がいて、彼女が言うには、一度通った道の風景は写真のように頭におさまるらしい。また、会議室に入ったとき、そこに誰が座っていたか一瞬に絵として脳裏に焼きつくのだという。だから道に迷わないし、会議室に誰がいたかを(服装や表情まで)はっきり覚えている。
彼女の例からは、ある種の記憶力の強さは、視覚的であることに支えられていることが分かる。

読心術師のように二時間で300冊分の資料を覚えることは容易ではないけれど、記憶力に自信のある人は、彼のように、一見無意味な情報を視覚的に受容できるよう瞬時に変換する癖をつけると、より記憶力をアップできるかもしれない。記憶力に自信のない人は、目の前にあるものを「絵」として脳裏に焼き付けるように努めれば、瞬発力のある記憶力を、養うことができるかもしれない。

精神生理

ディスカバリーチャンネルの「尋問テクニックの秘密」という番組でやっていたのだけど、犯罪の捜査官たちは、容疑者が嘘をついているかどうか、見抜くテクニックを身につけている。嘘をついているとき人は目をさまよわせる。不安な時は腕を組み、隠し事をしている時は鼻にふれる。よく知られたことではあるけれど、実際にその様子を見ると、如実に表れることに驚かされる。たとえば、「凶器はどこに隠した」と尋ねると、一瞬目がその方向を見たりする。
捜査官たちは、こういった身体への表出を経験的に知っているが、読心術師は、専門的に知っている。
被験者にこれまで付き合った男性の数や、車の予算を尋ねるのに、その身体生理を利用する。1から数字を数えていくと、特定の数字で、筋肉が反応したり、瞳孔が大きく開いたりする。隠しものをした場所に近づくと、脈が早まる。その身体的な変化を察知して、知りたいことをつかむのである。
手の内を明かさなかったけれど、目を覗き込むだけで、電話番号や、アルファベット、思い浮かべた名前までも言い当てるシーンがある。目を見るだけで? 少し前に、脳波を測ることで見ている文字の解読に成功したというニュースがあったけれど、それも不思議なら、こっちも不思議。読心術師は他人の脳波をキャッチすることができるんだろうか?

サブリミナル効果

ある男性がテレビを見ていると、ほんの一瞬、よく冷えた飲み物の映像が映し出される。とたんに男性は喉の乾きを感じ、外の空気を吸いにベランダへ出る。その瞬間を狙っていた狙撃手が、男を撃つ。
ゴルゴ13」のこのシーンでおなじみの、潜在意識に刷り込みを行い行動を促すことを、「サブリミナル効果」と呼ぶ。
人は意識して見ているものより、無意識に見ているものに影響を受けやすい。上記のケースでは、「よく冷えた飲み物」の映像は、視聴者がそれと気づかない、ほんの一瞬の間に差し込まれる。サブリミナル効果は、その効果が実証されたことはないが、放送・映画では使用を規制されている。

読心術師がこの効果を利用するのは、たとえば、「好きな数字を言ってください」というような、自由に思いついた数字や単語を言わせる場合だ。
「あなたの好きな2桁の数字を言ってください」と言われて「うーん、23」と答える。読心術師のポケットから紙切れが出て来て、23と書かれている、というようなケース。実は被験者に話しかけながら、指を二本立ててみせ、次に指で数字の3を宙に描いてみせる。被験者はその仕草を知らずと見て、「23」と答える。(ちなみにこの例は私の創作。実際にはもう少し複雑な仕込みがある。)

この「刷り込み」は「サブリミナル効果」とは呼ばれていないけれど、そうと思いついたのは、被験者にネクタイの色と柄を当てさせるシーン。被験者は見えないネクタイの柄を当てるように言われる。彼が考えている時に、窓の外に水玉柄の青い車が通り過ぎる。被験者は「青い生地で、柄は水玉」と答えるのである。もちろん彼は、窓の外の車には気づいていない。意識的には。

ちなみに、対面で行うサブリミナル効果には、前提条件がある。これは私の推測。
まず、効果を及ぼす人と効果を受ける人(ここでは読心術師と被験者)との間の、信頼関係。効果を及ぼす人は、相手に対し信頼を得ていながら、指示を出す上位の立場にいなければならない。例えば、堂々と話すなど基本的なことから、握手をするとき手を下にしない、という些細なことまで、その関係性を作るためのヒントは、番組中にちりばめられている。
次に、なるべく外部からの情報を遮断すること。刷り込みたい情報があるのに、隣の席の会話で色んな単語が聞こえてくると、被験者はどの単語に影響を受けるか分からない。なるべく静かな場所が理想的だが、相手を会話に集中させることでも可能になる。例えば相手の眉間の辺りをじっと見ると、相手はこちらを見返す。そのとき、相手はあなたへと集中を注ぎ、周囲の情報がまったく入ってこなくなる。実際どれほど周囲に気づかなくなるか? その実験も番組内で行われて、とても面白い。

「信頼関係」と「意識の集中」は、実はあることの前提条件と共通する。それは「催眠術」と呼ばれる、無意識へアプローチする方法である。次は、その催眠術について。

催眠術

むかし読んだ本によると、催眠療法というのは、無意識層にイメージを埋め込み、心理状態を意図する方へ導くもので、それには幾つかの手順がある。
まずはリラックスして、意識を顕在意識から潜在意識へと切り替えること。イメージの刷り込みには肯定的な言葉を使う。そして現実世界でその刷り込みが発動するようきっかけを設定しておく。最後に潜在意識から顕在意識へと戻ってくる。

意識の切り替えには、いくつかのコツがある。先に述べた「信頼関係」「意識の集中」もひとつだが、意識を感覚的なものへ切り替えていくテクニックが言葉の誘導としてある。詳細に述べると長くなるので、興味のある人は本などを買うといいと思う。

イメージの刷り込みにもテクニックがある。人の脳は一次的には嘘を嘘と判断できないのだという。*1
入って来た事象すべてを真実と受け止め、その次の段階で疑わしいかどうかを判断する。そうと考えると分かりやすいと思うが、無意識の状態では、話しかける言葉に注意する必要がある。「朝起きると、心配事はすっかりなくなっています」よりは「朝起きると、清々しく、やる気に満ちています」の方が、脳は正しく受け入れやすい。否定的な言葉を含むより、肯定的な言葉を重ねることが大切である。
それから、現実への仕掛けの設定。「ベルがなったら、席を立ちたくなります」といったようなきっかけを配置しておく。とくになければ、「私が手を叩いたら、とても良い気分で目を覚まします」など、催眠から解かれた状態に設定する。
潜在意識から顕在意識へもどるのも大切な手順になる。現実の生活へ支障が残らないように配慮が必要になる。催眠療法で辛い過去を思い出させる場合など、ネガティブな感情を現実世界へ引きずり込まないように暗示をかけたりする。

催眠療法について事細かに書いたのは、このことを知って、こういった番組や映画をみると、実際に符号することも多くて面白みがあるからだ。

催眠術は、軽いものなら先ほどの「対話者へのサブリミナル効果」といったものから、高度なものでは「マインドコントロール」までに及ぶ。
催眠術には暗い歴史がある。冷戦時代に、スパイ活動に催眠術が利用できないかと模索されていたのだ。と、前置きして、この「心理トリックの世界」のシリーズでは、最終話「マインドコントロール」にふれる。

「催眠術なんて役者が演じているだけ」と考える人は多いだろうし、番組でもそういう被験者が出てくる。この番組もそうなら全ての前提はくずれるけれど、そうでないなら、劇場で観客という多数の人に対して一度に催眠をかけることや、催眠によって本人の意に添わない指令を与えることも可能ということが分かる。*2
実際に催眠によって指示を与えられ実行した被験者たちは、一様にショックを受ける。とくに、指令の内容次第では人を殺したかもしれないと感じる場合はとくに。このことは、場合によっては被験者に深いトラウマを残すかもしれない。番組では、催眠によってネガティブな感情を感じてしまった人に対して、後日に影響が残らないように暗示をかけ直している。

サブリミナル効果が放送で禁止されているように、催眠によって販売営業を行うことも米国では州によって禁止されている、という話を読んだことがある。昔すぎてどの本だったかもう探せないけれど。
こういったエピソードは、催眠術ってそれだけ効果があるんだな、と思うよりは、慎重に行わないと相手の心に傷を負わせてしまう可能性もあるものだということに、気づくことが大事なのだと思う。
催眠術・催眠療法に関して、私は科学的にもっと評価されてもいいと思うのだけど、反面、合意のない暗示は、自由意思の侵害でもあり、それが当人にとって大変に屈辱的で、侵してはならないものであること、催眠療法が、否定的な言葉や暗示のかけかたによって、顕在意識に想定外の影響を残してしまう可能性なども、同時に知られなくてはいけないとも思う。

もうひとつ書き添えるなら、催眠療法に興味をもった私は、実際にそれらを学べる場所を探してみたのだけれど、どこもオーラや前世療法など、思っていたのとちょっと違うようなものと結びついているところが多く、結局、本を読むことで満足することにした。「催眠」が、非科学的なものと結びつきやすいということも、もちろん覚えておくべきことだろう。

創作と催眠術

無意識層と現実の不整合を感じるには、映画「インセプション」がちょうどいい例なのではないかと思う。
人の潜在意識に入り込みアイデアを盗む産業スパイのコブは、依頼人のライバル会社の息子ロバートの無意識層に、ある考えを「植え付ける」仕事を受ける。
このアイデア催眠療法の世界そのものである。先に述べた催眠療法の「コツ」が、この映画でもうまく取り入れられている。潜在意識に誘導したい行動へ方向付けるイメージを植え付ける。そこに至るまでには、夢の本人の拒否が起こらないよう、肯定を重ね配慮を尽くす。無意識層の影響が現実へ及んでしまう不安感は、作品全体に漂っていて、作品の魅力のひとつとなっている。

映画に出てくる「キック」は、現実世界に施す「きっかけ」に似ているような気が漠然としていたけれど、改めて考えると、そう考えるのは難しいかも。無意識層に仕込んだ仕掛けが、現実からのスイッチによって発動する。一方は、無意識層から現実へ引き戻す「キック」。どちらも無意識層と意識層をつなぐための「スイッチ」ではあるけれど。

催眠療法の本を読んだとき、なにかひとつ物語を書いてみたいと思ったのだが、けれどまとまらず数年が過ぎ、公開された「インセプション」を見たときは、本当に衝撃的だった。催眠という世界を、SFの世界観で、あれだけ面白く、視覚的に描いてしまうなんて。
その気持ちを言葉にする先もなく今日まできたけれど、ディスカバリーチャンネルの特集で改めて考えて、まとめてみたくなった。
催眠療法というと、怪しいのでは…と思う人が多いだろうけど、距離感を気をつけながら付き合うと、とても面白い世界だと思う。

*1:ディスカバリーチャンネル:「殺人犯の心理 カルト信者」より

*2:追記:私の読んだ本には、催眠によって本人の希望しない行動をさせることはできない、と書いてあった。たとえば「インセプション」で社長の息子で夢の持ち主ロバートは、コブら企業スパイによってあるイメージを植えつけられるが、実はそれは、ロバート自身が内心望んでいたものだった。インセプションのこういう忠実さは面白い。しかし一方で、ディスカバリーチャンネルでたまにやるマインドコントロールの特集では、意図しない行動も指示できるという見解のものが多い。相反する二つの見解があることを、覚えておくに越したことはないだろうと思う。