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日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

ピーターラビット™展 @ Bunkamura ザ・ミュージアム

art

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Bunkamura ザ・ミュージアムで開催のピーター・ラビット展へ行ってきました。

やや混雑ぎみと聞いてたので、いつもは怯んでしまうところですが、ピーター・ラビットむかし模写したりして思い入れがあったので、ちょっと見ておきたいかな、と午前のうちに渋谷まで足をのばしたのでした。

小さい絵ばかりなので、列が滞りがちなのは仕方ないかな。こういう時は音声ガイドに頼ろう。列の流れを待つ間、ビアトリクスさんにまつわるエピソードを聴きながら、じっくり見て回る。

冒頭に展示のビアトリクス・ポター18歳の頃の日記は、なんと暗号で書かれています。今は解読されているこの日記、「勉強は退屈だから、絵を描いていたいわ」と内容は他愛ないものですが、それにしても暗号…自分の世界をはっきり持った人だったのだなあと思いました。

飼っていたウサギのスケッチをするのが好きだったビアトリクス。絵本を描くきっかけは、知人の病気がちな子どもを励ますために描いた絵葉書でした。のちに彼女が写しとったその絵葉書が展示されていましたが、さらっとしたペン画に、積み重ねた確かなデッサン力がうかがえます。

伊藤若冲が鶏に思い入れがありすぎて、鶏を飼って毎日写生していたとか、森狙仙は猿を飼うだけでは飽きたらず、山にのぼって野生の猿を写生したという話がありますが、そういった生き物への関心と愛情が、ビアトリクスにも感じられるのです。

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なにより魅力的なところは、その世界観です。木の根本の穴ぐらに住んでいるウサギの家族。いたずら好きのピーターは、マクレガーさんの畑に入って追いかけられてしまう。命からがら逃げ帰ったその夜、おなかをこわしたピーターに、お母さんがカモミールティを作ってくれます。

こういう世界があったら素敵だな、という世界が、彼女の中でどこまでも広がっていく。子ども心に純粋にワクワクするものが、いくつになっても色あせない。ピーター・ラビットの世界に、生きものとのふれあいや、森の中の別世界など、子どもの頃の憧れを思いおこすのでした。

ピーター・ラビットの世界は、イギリスの”美しき郊外”の雰囲気を濃密に漂わせています。ビアトリクスが生きた19世紀末のイギリスは、産業革命で工業化が進み、都市の環境破壊が問題になった時代でした。その反動で"田舎への憧れ"がつくり上げられた時代でもあります。

ビアトリクスにインスピレーションをもたらせたのは、イングランド北西部の湖水地方でした。手にした印税で土地を購入して、農園経営者になるほど。一時は絵本から離れるほど農作業に入れ込み、この土地を愛しました。

遺言により彼女の土地は、英国の歴史・自然保護の活動をおこなうボランティア団体、ナショナル・トラストへ寄贈されます。湖水地方の自然と景観、その暮らしを生涯をかけて守ったビアトリクス・ポターは、環境保護活動の先駆者でもあったのでした。

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女性が社会につながる意識の薄かった時代。家庭教師に勉強を教わり、普段外に出ることもなく、弟とウサギだけが友だちだったといいます。46歳のとき両親に婚約者を紹介するも、家柄の違いから猛反対を受けてしまう。結局、弟の支援を受けて結婚するのですが。そんな時代に絵本作家*1、農場経営者として我が道を歩んだ彼女の、芯の強さを思わずにいられません。

これを機に絵本でも買おうかなと思ってたものの、一期一会という気がして、つい図録を購入。お母さんがピーターにつくったカモミールティや、ベンジャミンのお父さんが吸ってるウサギタバコことラベンダーの茶葉も、可愛らしい小瓶に入って売ってました。商売上手ですなあ。

ビアトリクス・ポター™生誕150周年「ピーターラビット™展」
Bunkamura ザ・ミュージアム
期間 2016/8/9(火)-10/11(火)  ※会期中無休
時間 10:00-19:00/毎週金・土曜日は21:00まで(入館は閉館30分前まで)

福岡 福岡県立美術館 2016年10月28日(金)~12月11日(日)
仙台 TFU ギャラリー Mini Mori 2016年12月20日(火)~2017年2月1日(水)
大阪 グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボ 2017年2月11日(土)~4月2日(日)
広島 ひろしま美術館 2017年4月15日(土)~6月4日(日)
ビアトリクス・ポター™生誕150周年 ピーターラビット™展|ザ・ミュージアム | Bunkamura

図録も公式も参考にしましたが、ウィキペディアの情報の豊富さにはちょっと驚きました。19世紀イギリスの上流階級に生きる女性が、どのような価値観のもとにいたのか、というところが垣間見えて、とてもおもしろい。彼女がなぜ、暗号で日記を書いたかの推測も考えさせられました。

*1:博物学的関心の強かったビアトリクスは、きのこ・菌類の研究で学会に論文を提出するのですが、女性だという理由で無視されたそうです。(1997年リンネ学会が謝罪とのこと)研究者の道が困難だったからこそ、その情熱が絵本創作へと向けられたのかも。のちに湖水地方原産で減少傾向にあったハードウィック種の羊の繁殖に成功し、品評会でも何度も賞をとったというビアトリクスですが、絵本創作にも農場経営にも、自然に対する学術的な関心と情熱が通底してあったのかもしれません。