日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

8月の風景 満ちてく潮は

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ある夜の自宅までの帰り道、フロントガラスの向こうに大きな月が出ているのを見つけた。地平に近い月は夕日のように赤くなると聞いたことがあるけれど、ちょうどそんなふうに、東の空に赤みがかる大きな月だった。

ふと思いつきで、そのまま車を東の岬へ走らせた。さいわい後部座席にカメラと三脚がおきっぱなしになっている。月夜の晩は星空撮影に不向きではあるけれど、どんな絵が撮れるか行ってみないと分からないこともあるし。

集落さいごの民家を過ぎると、あとはきび畑の続く真っ暗な道。岬を一望できる展望台について車のライトを消すと、時おり光を投げかける灯台のほかは、自然のまま月の光だけがあたりを照らしている。月は高くあがって、金色の輝きに変わっていた。

月明かりが強すぎて、灯台や岬のシルエットを映しこむと、昼間のような写真になってしまう。あきらめて、月と海だけの構図に切り替えた。ISO感度をさげて、絞りをしぼって、なるべく長い時間ひかりを取り込むようにシャッターを切った。

月の光に向き合う数秒間。雲が流れて月を隠すと、あたりは真っ暗になる。月の現れるのを待って、もう一度。あたりの闇になれてくると、満ちていく潮の流れが分かった。海に向かってひらけた断崖のうえで、波より強い力で流れ込んでくる、潮のうねりを眺めていた。

私のからだを包んでいる見えない大きな力が、月の光に照らされて、その姿を赤裸々に見せている。大きなうねりの前で、私の影はあまりに小さくささやかで、なすすべもない。目の前に繰り広げられる月と海の共鳴に、そんなことを感じていた。

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遠くで漁火の青い灯りが見えた。波間にぼうっと灯ってきれいだった。その光景まで撮りだしたら夜も遅くなる。ここらで三脚とカメラをしまって、帰りがてら岬の先まで車を走らせた。この壮大で叙情的なシーンにぴったりでは、と、むかしの映画の音楽を流してみた。

楽しみを希う心

楽しみを希う心

合わないこともなかったけれど、なんとなく寂しい気持ちになって、「運命とは、」とつぶやいてしまった。いろんなものを手放して空っぽになって、いまさら運命とは。ドラマチックな情景と音楽に自分を重ねるには、ほんのちょっと時期が悪かったかもしれない。

あとから調べたら、この日は満月だった。天の川を撮りに新月の晩に出かけたいなと思っていたけれど、満月の海もとても良かった。森羅万象の語りかけに耳を傾ける時間。今度はもう少し早く月の出に立ち会って、大きな赤い月を撮りたいな。

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月が雲隠れしかけたときの30秒。ホワイトバランスをかえたり秒数を変えたりするだけで、波の表情も変化して楽しい。