あいちトリエンナーレ二日目は、岡崎市内の会場をめぐりました。名古屋市内でくたくたになった翌日。RPGで宿に泊まっても体力値が完全には回復しないの、こういう感じかあと思いながらホテルを出る。
乙川をくだって伊賀川に入り岡崎公園までゆく和船のルートも、出発前に知っていいなと思っていたものの、少しでも体力消耗をふせぐために、結局レンタサイクルを選ぶ。
http://www.city.okazaki.lg.jp/300/303/p020024.html
観光案内所の自転車は出払っていますよと言われてしまったけれど、向かいにあったトリエンナーレのレンタサイクルのカウンターへ行くと、午前の人たちが帰ってきてちょうどあります、と。よかった…。各会場駐輪スペースがありスムーズに周れて、自転車とても良かったです。
名鉄 東岡崎駅ビル
ここは本当は翌日の朝いったんだけど、便宜上この流れで。
ちなみに岡崎市内、昭和の残り香ただよう建物がぽつぽつあったのですが、そのひとつが名鉄東岡崎駅にある岡ビル百貨店です。なんでも昭和30年代に建てられた駅ビルで、少し検索してみると情報いろいろ出てくる。渋いビルで、渋ビルっていうんですね。
その東岡崎駅ビル3階にあるのは彫刻家、二藤建人さんの展示。イスラエルの国境線ヨルダン川に立ってみたり、足の裏に他人を立たせ、その重みを支えたり、当たり前のことをひっくり返す作品が多い印象。ヨルダン川に立つ写真、じつは周りではイスラエル兵が銃を構えてたりして、緊迫した状況だったそうです。
作家自身を型取りした姿がスプーン型の底に沈むオブジェの向こうには、開店を待つ喫茶レストラン。このレトロな雰囲気の喫茶レストランのインパクトもなかなかのもので、二藤さんの作品と対峙して、一種の競演のような空気を醸しているのでした。
六供会場 籠田公園/石原邸
岡崎市内、まずは籠田公園へ。ジョアン・モデのインスタレーションがお出迎えです。意匠をこらして糸が編み込まれていて、名古屋市内のものに比べ密度の高い仕上がりになっていました。
そこからゆるっと坂を登って石原邸へ。江戸時代末期に建てられ、今日では指定文化財になっている古民家です。戦時中の空襲を奇跡的にまぬがれたために、復元をへて、現在まで姿をとどめているのだそう。味と文学の結びつきをさぐる関口涼子さんの展示が、まず目を引きました。
瓶詰めにされた、世界の香辛料の香りをかぐ。強烈な匂いもあるので注意。コリアンダーが柑橘系に近くていい香りでした。シナモンやターメリックなど、知っている香りにほっとする。薔薇の花びらのようなものはハマナスかな? 香りはいいし見た目も素敵です。
和室の空間にぽつっとある写真やオブジェの展示に、つい背筋を伸ばして向かい合う。現代アートなのに、禅画でも見るような気持ちになる。古民家のあちこちに、それとなく配置された作品を見つけては、こんなところにもあった、と空間ごと楽しめる石原邸でした。
康生会場 岡崎シビコ
あいちトリエンナーレの公式サイトの地図をたよりに次の会場へ向かう。岡崎シビコは昔ながらのショッピングセンター。一階では豆乳をいただきました。この前帰省したときに、母が大豆から作ってくれた豆乳と同じ、自然な甘みとさらりとした喉越しで、喉の渇きがうるおう。
会場となる6階は、コンクリートや配管を露わにする殺伐とした風景。3DやCG技術も珍しくなくなった昨今、アートにおける写真とは何かを探る。3Dモデリングの身体を写真に収めた作品がカーテンのように並ぶ展示は、ひそかにゲシュタルト崩壊系と名づけました。
勝又公仁彦さんの映像作品は、素朴なテーマでよかった。町の風景を撮ろうと歩き回るうちに、孵化する日をじっと待つ魚の赤ちゃんを見つける。街の中の多重な時間、そのすぐ側で変わることなく静かに、そして確かに流れている、もうひとつの時間。
奥のひときわ広いスペースでは野村在さんの写真やオブジェを展示。見えないものを形にしようと試みたのだとか。ガラスの箱の中で花火をしてみる、雨のかたちを樹脂で固めてとどめようとしてみる。思いつきは些細なわりに、じっさいの制作は大掛かりだったようで、スタッフさんの詳細な説明を聞いて、思わず笑ってしまった。
花火も雨も、実体は消えてしまうけれど、ガラスのひび割れや床に流れ出した雨のしみなど、残るものもある。形にできないと分かって面白がってみても、生命や都市もまたそのようなものかも知れず。消え行く存在の跡に思いをはせて、しんみりするのでした。
康生会場 岡崎表屋
岡崎シビコをあとにして大通りを下ると、国道一号線(東海道)につきあたります。ちなみに岡崎シビコの北側、籠田公園とを結ぶ連尺通は旧東海道にあたるらしい。このあたり自転車でめぐっても面白そう。
国道一号線を隔てて向こう側に、ひときわ目を引く年季の入った建物を発見。周りに高いビルもなく、オブジェのように鎮座している。すごい建物があるなあと見ていると、トリエンナーレのオレンジのロゴを発見。もしやあれが次なる会場…。
いったん岡崎公園前へ出て、横断歩道を渡ってから、先程見たやけに威厳を放つ建物へ向かう。
一階はオフィスとして健在のようで、二階から上が展示スペース、かつては会議室や生活場として使われてた形跡の残る間取りになっていました。
戦後間もなく作られたモダニズム建築。日本人サイズの狭い間口の居室や廊下に、窓や開けっ放しの裏口から差し込む自然光が陰影をつくって、建物の内側も雰囲気があります。
展示は、インド出身でイギリスで美術を学んだシュレヤス・カルレのインスタレーション。解説の書類をお借りできましたが、書いてあることは何やら難しげ。
かつて生活品であった品々を、アートとして再定義する展示。とすると室内に配されたオブジェに限らず、この空間自体が、作者の見据えたファウンドオブジェクトだったのかもしれません。
展示品の一つ一つは謎めいてましたが、ここはとても刺激的な場所でした。
東岡崎駅ビルでも同じことを感じたのですが、岡崎市内の駅ビルや、今もなお使われ続けているショッピングビル、オフィスビルは、この土地に住む人にとっての日常です。特別でもなく、ただ日々の中で当たり前にある風景。
そこにアートと名前のついたものが重ねられる。日常のものを奇妙に配置することで、とたんに作品となりうるのであれば、アートとは品そのものではなく、鑑賞者の頭にあるものといえる。つまり実体ではなく、観念の領域にこそアートが存在するのでしょう。
観念を虚像と読み替えることが許されるなら、ここにあるのはまさに現実と虚像の並列、あるいは現実を侵食する虚像なのです。ある種の合意のうえに、現実と虚像の共存する空間が成立しているのですが、その可笑しみの一方、あやうい均衡をも感じるのでした。
私が会場についたとき、あとから一台の車が入ってきたので、スタッフさんが専用の駐車場に案内しようと急ぎ車にちかづくと、一階の事務所からご年配の男性が慌てて出てきて「この人は、いいんですよ!」と言う。どうやら車の主は、事務所に用事のある地元の人だったようで。
何てことない一場面でしたが、あとから考えると、現実と虚像の境界がわずかに破られた一瞬だったように思えるのでした。
喫茶店
せっかく岡崎市に来たので、喫茶店のひとつにでも入りたいな。ところが17:00をすぎると個人経営のお店はじょじょに閉まっていくのでした。
いったん籠田公園へ戻ってみると、公園と乙川をつなぐ中央緑道のわきに、メニューが出たままの喫茶店を見つける。まだ大丈夫かな。公園に自転車をとめて、お店に入ってみると、18:00までやってますよ、と。ああよかった。
店内は外から見るより広くて、カウンターに大テーブルとテーブル席のゆったりした配置。窓際の席に座って、ホットケーキとアイスコーヒーを注文する。シンプルなホットケーキでしたが、ほかほかで美味しかった。
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お腹も満たされたところで、自転車返却のタイムリミットが近づいてきたので、そろそろ駅へもどろう。乙川までの緑道をゆるゆる降りていくと、途中で思わずブレーキをかけてしまう。
「喫茶 麻雀 TV 丘」と書いてある。たぶん喫茶店なんだろう。しかしものすごい異物感がある。アーチの窓・レンガの壁とヨーロッパ風だけど、よく見たら坪庭がある。その和洋折衷をはるかに越え、コテコテ感あるライトアップ、昭和のスナック風の看板文字、主張してくるメニュー。
なんか既視感あるなと思ったら、あれだ、「\インド象/(犬のイラスト[しまうま])<ニャーン」みたいな。いろいろ盛りすぎててまとまりのついてない感じ!
思わず見とれていると、店の中からロマンス・グレーで蝶ネクタイのマスターが出てきて「やってますよ」という。さっきホットケーキ食べてきたのに。でも、あまりのインパクトと、物腰柔らかなご主人とのギャップに、じゃあぜひ、なんて。
内装ビビッドなのに、不思議と落ち着く店内。テクノ調のオペラが流れてて、この空間で聞くと悪魔合体感ある。「誰もいないんで、写真撮っていいですよ」と言ってくださる。トーストとカフェオレを頼むと、トリエンナーレの参加者に配っているというステッカーをいただきました。
途中、トリエンナーレのオレンジのTシャツを着たスタッフさんが「休ませてもらいまっせ」と入ってきて、何やら世間話がはじまります。今日は海外から展示作品の作家さんが来ているらしい。にわか国際化してるようすの岡崎市。ちなみに喫茶丘さんが配っているステッカーは自主的に作ったものだそう。積極的にのっかっていくスタイルだ。
お会計のときに「どちらから」って聞かれるので「東京です」と答えると、「遠くから」と笑顔になってくれました。ほっこり。東岡崎に行かれる方は、ぜひ喫茶丘も会場のひとつと思って立ち寄ってみてください。今なら特製ステッカーがもらえる。
東岡崎駅周辺、昭和レトロ好きな人にはおすすめな街。渋ビル(覚えたて)もたくさんあるし。自転車の返却で駅前に向かうと、すっかり宵闇に沈んだ乙川にライトアップがかかっていました。旅情をそそる乙川の夜景でした。
関連URL
http://gpscycling.net/tokaido/tokaido.html