日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

年末だから映画を観る。「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」この星への憎しみ。ほか。

最近は映画を観る機会がめっきり減って、こんなはずでは。もっと人生ストイックに生きて映画を観る時間を確保すべきである。
という気分でいるが、なんとか年末映画館に行ってキャメロン監督の最新作を見た。映画は他にも観たので、ちょっとまとめて感想を書こうと思う。

ネタバレもあるよ!注意!

アバター ウェイ・オブ・ウォーター

© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ブログタイトルを「この星への憎しみ」と書いたが、婉曲である。作品に通底してあるのは人類への憎しみである。とくにクジラと思しき知能の高い海の生き物が、道具を使う人々によって狩られていく場面は、もう心の底から人を憎む気持ちでいっぱいになる。

この「人類への憎しみ」は、昨今SF作品の主流ではないかという思いがある。たとえば途中までしか読んでいない三体だが、なぜ三体人が地球を見つけることができたのか? そこにも、人類による、人類への憎しみがある。より恐ろしいのは、その憎しみへの共感が、自分自身の中にもあることである。

さかのぼれば、伊藤計劃「ハーモニー」も同じテーマがあったと思う。前日譚となる「虐殺器官」から順に読むと、より鮮明に「人類への絶望」が浮かび上がる。「虐殺器官」で予兆された虐殺のためのコードが、今まさに展開される時代に、私たちは生きているのかもしれない。

この世界に溢れる不正や搾取や支配そのための暴力に対する自浄能力を人類は持たない。そのことへの対峙として「ハーモニー・プログラム」が現れてくる。小説「三体」と「ハーモニー」では手段は異なるけれど、根本に、この地球に対する責任を果たしていない人類への失望が、根源的なエネルギーとなって物語が進むのである。

しかし、人類自身への問いともなる三体などに対して、本作はどうだろう。虐げられるのはナヴィたちであり、人類はもうただ暴虐の限りを尽くす。ナヴィと人間たちの間で葛藤の中におかれる少年スパイダーだけが、私たちに近い。

2分間憎悪という言葉があり、SNSなど2秒間憎悪みたいな瞬間が溢れる世界にも思えるときがあるのだが、言うなれば本作は3時間憎悪である。対象となるのは人類である。しかしそうかと思ってみていれば、物語は「そのロジックでいくとそうはならんやろ」という展開をしていく。

序盤から一貫して「戦うことは憎しみの連鎖になる」「人間はナヴィたちを戦いに仕向けている」として、非戦を貫くジェイク一家だったが、終盤では地球人のあまりの非道さに戦いへと雪崩れ込む。ラストは「もう逃げない」「家族を守るために戦うのだ」と決意して物語が終わる。

あれはブレイブハートだったか、イングランド王に凄惨な報復を受けても自由を勝ち取るため、抵抗の叫びを止めなかった男が描かれ、まだ子どもだった私もいたく影響を受けたものだった。本作も何かそういう美しい物語のように終わっているが、違和感は否めない。

いうなれば、争いという概念を持ち込んだのは人類であった。ナヴィたちは彼らの掟に従って極力戦わないことを選んできたのだが、ラストでは「民を守るためには戦わなければならない」と決意する。その世界に生きれば当然そうなるだろう。しかしその世界はフィクションなのだ。

闘いの概念を、調和の星パンドラに植えつけ、持ち込まれた葛の葉がその爆発的繁殖力で覆いつくしていくように、闘いがこの星を覆いつくしていく。闘争という概念の前に、パンドラは屈したのだ。非戦を貫くべきという話ではなく、キャメロン監督はわざわざ、非戦との対比で戦うということを描いたということだ。

ある意味でそれは、とても今らしいテーマであったかもしれない。むしろ話の中盤からはそう思えてならなかった。だが、暴力の自浄能力を持たない人類への憎しみを描きながら、その着地点が「暴力に対して戦うこと」というのでは、時代が18世紀に巻き戻っている。「ハーモニー」のほうがずっと真摯に、人間に内在する暴力性に向き合っていた。

むしろ私たちは未来へ向けて語っていかなければならないのであり、今世界に求められているのは、文明人として、どう暴力への自浄能力を確保していくべきかということなのだ。それは現実の世界での難しさがあるからこそ、希望ある未来へのパスを思い描く力をフィクションが与えることを志向するようであってほしい。多様な作品があって良いが、敬愛するキャメロン監督の作品としては失望するしかない。

とはいえ続編があるらしい。町山智浩さんの解説でも、父親と息子の物語として描きながら、父親が成長していないと言っていたけれど、全体的に「軍隊調の父親」「父親は家族を守るもの」など反語的にテーマを投げかけて、回収しないまま終わった作品だったので、続編でどう回収されるかに一縷の望みをかけ、緊張感をもって注視していきたい。

映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』本予告編【異次元の”没入型”映像体験】12月16日(金)劇場公開 - YouTube

note.com

はりぼて(2020)

© チューリップテレビ

2016年富山市議会で可決された「議員報酬月額10万円増」、根拠も示されず、審査会でも増額ありきで進み、市民の反対の声もあがるなかとんとん拍子に決まっていく。このことをきっかけに「市議会議員は見合う働きをしているのか」という問いが浮かび上がり、取材した記者たちの取り組みから、政務調査費架空請求など不正使用が明らかになっていく。

母親の見たい映画リストに入っていたので、年末はエンタメを楽しみたいよねと内心思いつつyoutubeでレンタルしたが、いやいやドキュメンタリーだからこその凄みあるよね。涼しい顔して「そんなことしてませんよ」「絶対に無いです」と言ってたのに、証拠をつきつけられると沈黙してしまう。「...公式には、言ってないですね」って、それ非公式では言ってるよね!?

富山県の小さなテレビ局が、地方政治の不正に切り込み、終盤では記者たちの報道に対する戦いでもあったのだと気付かされる。見てて胃が痛くなるような場面も多々あったけれど、おもしろかったです。見るべし。

映画『はりぼて』予告編 - YouTube

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男(2019)

© 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

ウェストバージニアに住む祖母のつてで訪ねてきた農場主の依頼を、弁護士事務所に勤めるビロットは当初断るが、心にひっかかるものがあり、独自に調査をすすめるうちに大企業デュポンの不正を確信していく。しかし彼の務める弁護士事務所は企業を顧客にしており......。

上映当時、映画館でも観たけど、また観た。大企業に対する不正を明らかにしていく過程も見ていてボルテージあがるけど、状況が好転するにつれ、むしろビロット自身は孤独になっていくところも描かれ、「誰のために戦うのか」をすごく考えさせられる。

なぜビロットがここまで不正の解明に身を投じるのかと考えると、彼しかできない仕事だと感じていたからだろうと思う。どんなに孤独になっても、どんなに周囲からの無理解があっても、押しつぶされない、真実というものの硬さを見るような作品。

映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』予告編 - YouTube

社会と戦うということは、戦う個人が誰かに「ありがとう」と感謝されることが還元ではないのだなと思う。むしろ個人的には孤独や無理解がおそってきても、戦わなければならない時がある。そういうことを教えてくれる気がして、二度も見てしまった。

米国内では大企業が田舎に工場を使って、環境汚染を引き起こし、問題になっているケースが多々あるようだ。むかし観たドキュメンタリーではシェールガス会社が安く土地を買って環境汚染を引き起こし、地域の人たちが弁護団と協力して住民訴訟を起こす仕組みをつくっていた。

またピュアウォーター産業も活発な米国、工場を作り、水を使い、排水を雑に流して環境汚染という例もあるというのは、ネットフリックスのドキュメンタリーだっけな。そういう中で、地域が国や企業と対等になり戦わなければならない状況があり、住民自身が強くなければいけないのが今の現実なのだなと思う。

身近におこっていることで言えば、日本で米軍基地由来と思われる水汚染があるけれど、まさに本作で焦点となったPFASが検出されているわけで、沖縄県全体で被害調査したほうがいいレベルと、この映画観た後だと思うよね。

相手が大企業デュポンから、日米政府とグレードアップしていて、さらに日米地位協定の厚い壁が真相解明を阻んでいる。地元新聞二紙は分かってて大きく報じているのだろうと思うが、県民側にプレーヤーが少ないな。見えないだけで頑張っている人もいるのかな。

“有害”化学物質PFAS 各地で波紋広がる | NHK | WEB特集 | 環境

町山智浩 映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』2021.11.09 - YouTube

ブラックボックス 音声分析捜査(2021)

© 2020 / WY Productions - 24 25 FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - PANACHE Productions

主人公は航空事故調査局の音声分析官。最新型航空機がアルプスで墜落し、乗客・乗務員全員が死亡する。事故時の状況をする手立ては残された音声データ。

天才的に耳の良い(雑な説明)マチューは、音だけでコクピット内の人の距離、機体の不審音、音の方向などを割り出せるのだけど、自分の感覚を絶対的に信頼するあまり、独善的な行動もとりがちで、周囲との不協和になりやすさも抱えている。

墜落事故の音声データをめぐって原因を究明していくうちに、その背後にある大きな不正を疑わざるを得なくなっていき...。

予告ですごく面白そうだったので。結果、おもしろかった。音声データをめぐるサスペンス。年末見たかった映画の中では、これがいちばん予定調和的に楽しめました。

『ブラックボックス:音声分析捜査』予告篇 - YouTube

ザ・ホワイトタイガー(2021)

インドの貧困な地域で、父は働きづめで早くになくなった。賢いバルラムは早いうちから村を出ることを望み、地元大地主の家の運転手として雇われることに成功する。地主の息子アショクに付き添うバルラムは、階級社会にある欺瞞を目の当たりにしていく。

年末みた中ではいちばんおもしろかったな! 踊らないインド映画とはいえ物語はコミカルに進んでいく。消化されない思いは多々あるけれど、それが自分の中でぐるぐる渦巻いて圧倒される。

父親が焼かれるときの体の反応がバルラム少年の記憶に焼き付くところ、カゴのなかのニワトリの話、地主を裏切れば故郷の家族が殺されてしまうかもしれない話、また社会主義者として人気の高い女性政治家が地主家族に献金をせびるところ。

外国帰りのアショク夫妻がバルラムに夢や理想を語りながら、結局は何もできないところ。ピンキーに注意されて噛みたばこをやめて歯磨きを始めるバルラム。野党が選挙に勝って庶民が喜ぶシーン。国全体が、不正と搾取の構造におぼれているような息苦しさがある。

バルラムは私たちにこう語る。世界を変えるには二つしかない。犯罪を犯すか、政治的に変えるか。これは2022年の7月のあの暑い日に、私たち日本人が目撃したことでもある。追い詰められれば前者しかない。けれども当然、そうであってはならない。

もちろんバルラムは、政治的に社会を変えていくことが真に我々に求められることなのだとも(間接的に)語っている。そのことを幼い同郷の少年に重ねていることも、言うまでもない。

彼の企業では信仰の自由があり、社員と会社は対等に雇用契約を交わし、社員のミスは会社として責任を引き受ける。変えるのは仕組みでなくてはならない。

興味深く観たのは、バルラムが「これからは黄色と茶色の時代」と繰り返し語るところ。出だしでは中国に対し「英国に屈しなかった」と褒めていて、イギリス領となっていたインド帝国の歴史をインドの人たちがどう思っているのか、私には想像したことのない視点だった。

アショクがたびたび海外で生きることを夢見ながら、自分はインド人だと、宿命を背負う選択を見せる場面がいくつかある。われわれは欧米人にはなれない。自分の社会のことは、我々自身で決めていく。それがどんなにどうしようもない故郷であっても。

アショクのその思いが、成功したバルラムの「これからは黄色と茶色の時代」という言葉に繋がっていくのだろうなと思う。貧困の連鎖を脱しようともがいたバルラムの言葉としては、繋がりにくさがあるけれど、バルラムとアショクが表裏一体の人物であったと考えれば、すっとはまるかもしれない。

バルラムがアショクに対し、愛憎ともつかない思いを抱くところも含めて、彼ら二人の物語であったかもしれない。と見終えてしばらく後で思ったりしました。

『ザ・ホワイトタイガー』予告編 - Netflix - YouTube

アッチャー・インディア 読んだり聴いたり考えたり:Netflix『ザ・ホワイトタイガー/The White Tiger』は21世紀インドの『罪と罰』!

www.netflix.com

まとめ
  • めちゃおすすめ☆

「ザ・ホワイトタイガー(2021)」

  • たくさんの人に観てほしい!

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」
「はりぼて」

  • 安心しておすすめ◎

ブラックボックス 音声分析捜査」

  • 高い緊張感をもって注視

アバター ウェイ・オブ・ウォーター」