日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

終わらない夏休みの終わり

シティ・ポップに関する記事を読んで、私はシティ・ポップは世代ではないんだけど、思うことも雑多とあって、好き勝手に雑感をまとめてみようかなと思った次第。

日本の「シティ・ポップ」世界的人気のナゼ…現象の全貌が見えてきた(柴 那典) | 現代ビジネス | 講談社(1/7)

ミレニアル世代を魅了する奇妙な音楽「ヴェイパーウェイブ」とは何か(木澤 佐登志) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

ヴェイパーウェイヴは、80-90年代の商業BGMを実験的手法で再構築したものだそうで、当時に描かれた理想的ヴィジョンの再現に、亡霊のようなノスタルジーを見るのだという。

テレビコマーシャル、リゾート地、ネオン、ショッピングモール、ミューザック。
無機質な理想郷というイメージから、長野まゆみの「テレヴィジョン・シティ」を思い出す。
ドームに映し出されるカナリアン・ビュウの碧い海。平穏という虚像と、終わらない夏休み。

押井守の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」にも同じイメージがつきまとう。
この先に待つ希望なき時代を予見するかのように、失われた未来――仮像の世界をループする。

ノスタルジーは喪失をともなうものだ。この場合の喪失は、未来にかかるのだと思う。
ヴェイパーウェイブは2010年代になって、かつて描かれた「来ることのない未来」をアイロニーを込めて再現する。

シティ・ポップの源流はAORにある、と個人的には思っている。
AORをあらためて聞き直してみると、ソウル・ミュージックの継承がしみじみと感じられる。

ジャズの隆盛期をになったスウィング・ジャズが白人主体だったように、AORもブラック・ミュージックたるジャズ、ソウル、ファンク、ダンス・ミュージック等々の流れを大きく受け継ぎながら、主体となったのは(そして我々一般聴衆からの担い手の印象は)白人であった。

華麗で粋な都会の音楽というものの実は、ブラック・ミュージックの要素を主として洗練した白人音楽の側面があり、ソウルとは真逆の生活を感じさせない風合いなのは、一種アイロニカルでもある。一方で理想をおえばだんだんと平均化していくように、80年代商業が描き出したバカンスのための理想郷は、型で抜いたように均一で記号的なものになっていった。

と、AORからの流れをおさえつつ、さらにシティ・ポップを考察すると、経済成長を経た日本において、商業主義と大量消費社会の極みに現れた画一的な理想郷の幻影をともなうのだった。...などと、2020年からのメタ的視点でヴェイパーウェイヴを踏まえれば、そんな風に見ることもできるかなと思う。

当時、日本でシティ・ポップがどんな風に受け止められていたか、世代が違うので分からないけれど、「テレヴィジョン・シティ」や「ビューティフルドリーマー」のもつ独特な世界観を思えば、あながち、当時も「ループし続ける仮像の理想郷」のイメージは存在したのかもしれない。

先の記事のブックマークコメントに、ICEとかSPIRAL LIFEの再発見につながらないかな?ということを書いたのだけど、ひと呼吸ついて考えてみると、ICEなり渋谷系シティ・ポップの系譜をなんとなく引いてはいるけれど、やはり別物だろうな。

おもえばインディーズ・レーベルという言葉が隆盛になったのは90年代で、渋谷系にしてもマスを対象とした音楽ではなく、小規模でディープなクラスタ向けになっていたように思う。

だから、傾向は似ていても、背景に共有する景色が変わってくる。多様な音楽の水脈が流れ込んで、雑多で、変化に富んだ時代だった。人によっては嫌われるようなスタンスの人たちがコアなファンを獲得した。

SPIRAL LIFEはみんな大好きになると思うけど。
90年代って、30年前なんだぜ。30年前から音楽って進化してんのかな。してないんじゃないかな。とか思ってしまう。

まあでも、90年代が再発見されてフューチャーされることもなくはないかもしれない。隠れたカッコいい曲たくさんあるし。ちなみにNokkoのi will catch uはテイトウワが作ってる。原曲をyoutubeで聴くことは今のところできなさそう。

90年代がどんな時代だったか?というと、TKがいてヴィジュアル系がいて、スピッツミスチルがいたんだけど、渋谷系的な話でいえば、ソフィア・コッポラの「ロスト・イン・トランスレーション」(2003年)が、すごく90年代後半って感じで、そしてそれがなぜ90年代的なのか、言語化できそうにない。

2000年代に入っていくと、あの空気はあたりに散って薄まっていく。

いろいろ書いたけど、AOR系譜の曲、私は大好物で、それこそデイヴィッド・フォスターとか。今井美樹の黄色いTVもいいんだけどなと思いつつ話題を眺めていたり。この曲を作曲してる上田知華さん、早瀬優香子「キッチンから見える月」も作っていたりして、こういう甘いメロディすごい好き。

でも80年代って超絶ダサいみたいなイメージが定着してるけど、2010年とか2020年になってリバイバルしてるの、80年代の逆襲って感じする。

おまけ

ノスタルジックな過去への逃避とは?――猫シCorp.インタビュー|Vaporwave 特集 #2 | TABI LABO