2013年6月6日、アメリカ国家安全保障局 (NSA)が、IT企業の協力を得て、一般市民の個人情報を収集しているというスクープが報じられました。
6月10日、 政府による監視の告発に世論の注目が集まる中、情報提供者が名乗り出ます。
元CIA職員エドワード・スノーデンは政府機関を相手取った告発に際し、あらかじめジャーナリストのグレン・グリーンウォルド、ドキュメンタリー作家ローラ・ポイトラスの二人に接触し、情報をどのように世間に発表するか注意深く話し合ったのでした。
本作はスノーデンが、グリーンウォルド、ポイトラス、ガーディアン紙の記者の三人とホテル「ザ ミラ 香港」で会い、スクープが報じられ、告発者として名乗り出るまでの数日間にはじまり、その後の展開までおさめたドキュメンタリーです。
911後に成立した愛国者法は、対テロ捜査のため情報収集の規制を緩和したものでしたが、情報を収集される対象はテロリストと疑わしき者から、民間サービス会社の顧客へと変わりました。
情報収集システム「PRISM」で傍受した膨大なデータは、ユタ州につくられたデータセンターに蓄積され、該当の人物に対し検索をかければ、個人の情報を引き出すことができる。その人の新しい情報が入れば、通知させることもできるといいます。その人が過去に何をしたかだけでなく、これから何をしようとしているのかも分かってしまう。
安全保障として始まった政府による情報収集でしたが、監視対象者リストに載っていた名前の数は120万人。数年のうちにテロ捜査の枠を超えた国民監視システムへと成長していたのでした。
政府による個人情報の収集がなぜ問題になるのでしょう。
少し前に日本でも、韓国国情院がLINE傍受しているという情報(LINE側は否定)が出た時、”抜き取られても全然困らないレベルの個人情報しか持ってない”人が騒いでいるとコメントをした著名人がいました。ドコモアプリの位置情報を警察に送信するアップデートが報じられた時にも、日常生活への支障を想像できなかったというのが、私じしんも正直なところです。
まずは法的な問題点があげられるでしょうか。米国では外国人への傍受に司法手続きは必要ありませんが、米国人に対しては裁判所の令状が必要になります。少なくとも、国民に説明する義務はあったでしょう。
しかし、もし合法化の流れになったら? 正しく管理されるなら問題ないのでしょうか。
懸念のひとつには、愛国者法のもとでムスリムコミュニティに対する不当な捜査が行われてきた経緯があるのだろうと思います*1。では、そのような特例と結びつかなければ良いのか。
とあるIT事業者は、該当人物の情報か、サーバーへのアクセス権どちらかを渡すように迫られ、これに対抗するために会社をたたんでしまいます。彼の信念は、監視されることを意識する社会では、人々は萎縮し、団結する力を失くし、異なる意見の者どうしが自由に発言できなくなるということでした。つまり国家に対する個人の力が弱められてしまうのです。
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本邦公開は2016年6月11日、香港のホテルの一室でおこなわれたスノーデンへの取材から3年が経ちました。当時の報道をよく覚えています。エクアドルへの亡命を申請していたスノーデンでしたが、米国の圧力により、エクアドル政府はこの亡命者の支援を取り下げたのでした。
この一件で浮き彫りになったのは、米国とほかの国々のパワーバランスでした。アイスランドは口を閉ざし、エクアドルは手を引きました。一方、モスクワの空港に足止めされているスノーデンを引き渡すように要請する米国に、素知らぬ顔をするロシアの思惑やいかに。
政府機関の国民に対するスパイ活動を告発したスノーデンは、米政府からスパイの罪に問われています。告発に関わったジャーナリストたちもまた、米国に戻ることを避けているようです。
告発時のスノーデンの社会的地位とか、なぜ彼がグリーンウォルド、ポイトラスの二人を選んだのかとか、アサンジ氏の支援とか、恋人の存在とか、小さな政府支持者でも保守主義とリバタリアンは全く違うんだなとか、情報傍受で訴えられた米政府の弁護士が「司法でなくて議会で解決を」とすごい主張をしてくるとか、悪い癖で全部書いておきたくなるのですが、この辺で。
ディストピア小説みたいな世界観が好きな個人として楽しみにしてたのですが、見終わった後は言葉を失くしてしまう。尊厳に関わる危機が現在進行形で続いているのを、目の当たりにするからかな。なかなか重量級のドキュメンタリー映画でした。
関連URL
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3381/1.html
*1:参考)極秘ファイル FBI:秘密裏の対テロ捜査ナショナル ジオグラフィック (TV)