日々帳

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映画の感想 - 完全なるチェックメイト / ブリッジ・オブ・スパイ

完全なるチェックメイト

アメリカの天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーは、1993年の映画「ボビー・フィッシャーを探して」にもその名声を描かれていて、この作品をDVD購入した私からすると、あの伝説の、的な存在のひとでもあります。

冷戦時の1972年、アイスランド・レイキャヴィックで行われたチェス世界王者決定戦で、米ソ両プレイヤーが対決した世紀の一戦。代理戦争とも呼ばれた伝説の対決を、物語の冒頭と終盤にもってきて、試合にいたるまでのフィッシャーの半生をおいます。

ユダヤ人の母への満たされない愛から、反ユダヤ主義を強めていくいびつさや、その危うさを知りながらも、世界王者であるソ連のプレイヤーとの一戦への支援を惜しまない米政府であったり、背後に描かれるものは盛りだくさんですが、見終わって思ったのは、「ボビー・フィッシャーを探して」は、フィッシャー自身を描いたものだったんだなあということ。

幼い天才、究極をつきつめるほどに削りとられてゆく精神。協力なライバルの登場。などなど、描かれていることが重なる。1993年当時、フィッシャーはまだ健全で、行方不明になっては、ふらりと人々の前に現れて試合に勝利したりしていたので、伝記を描くのは難しかったのかもしれない。

1993年の作品はフィクションだし子供が主人公なので、見終えたあととても爽やかな気持ちになれる。あと、公園で行われる「賭けチェス」に見る、相手との掛け合いの瞬間瞬間を楽しむようなゲームも、盤上に美しい数理を描く正規のゲームと異なって、魅力的です。

では「完全なるチェックメイト」はどうかというと、比べてやはり全体的にピリッと緊張したものがある。ラストのソ連王者ボリス・スパスキーとの対戦は、実際の試合をなぞらえているので、駒の指し方そのまま再現があって、周囲の緊張感ふくめて盛り上がるところです。

晩年のフィッシャーは米国国籍をはく奪され、諸外国を転々としますが、羽田で入国管理法違反でつかまってしまいます。米国の身柄引き渡しを要求を、フィッシャーは拒絶、彼の国籍確保をうったえる人たちの支援もあって、2005年にアイルランドの市民権を得て、かの地で余生を過ごしたのだとか。

変わり者の天才チェスプレイヤー、その人生をおうことで、チェスというゲームの魅力と深淵の深さを味わえる作品でした。

原題:Pawn Sacrifice(2015年 アメリカ)
監督:エドワード・ズウィック
脚本:スティーヴン・ナイト
映画『完全なるチェックメイト』公式サイト PAWN SACRIFICE|TOP

Pawn Sacrifice/TOMATOMETER 70%
http://www.rottentomatoes.com/m/pawn_sacrifice/

ブリッジ・オブ・スパイ

冷戦下の米国、ソ連スパイの弁護を担当するドノヴァンは、死刑を求める世論に反して、刑を懲役30年にとどめることに成功します。しかし、裁判長に話した「いずれ米国スパイが同じような状況になる時がくる、彼を生かせば駒として使える」という事態が実際に起きてしまう。

公式に関われない米政府は、捕虜交換の交渉をドノヴァンに依頼します。命の保証はなく、交渉の地は情勢の不安定な東ドイツ。さらにソ連の捕虜交換とは別に、東ドイツから拘束中の米国人学生との身柄交換の打診が。捕虜からの情報漏洩を怖れるCIAは、ソ連の要求だけ考えれば良いというのだが——。

あまり話題にはなっていないのですが、「面白かった」という感想がじわじわ聞こえて、仕事帰りのある夜に映画館によってきました。

さいきん小劇場の外国語映画ばかり見てるからか、完成度たかいってこういうことだなあと思った。米国、ソ連東西ドイツの事情や思惑と、状況は複雑なのに、混乱なく見せて、しかも複雑になるほどに、どうするのこれ! と引き込まれる。

冒頭に描かれる弁護士としての交渉のトークが、東ドイツ潜入中に再度でてきたり、東ドイツで見た「壁」の光景が、自由の国アメリカでリフレインしたり。東側と西側の世界が印象的なシーンでつながって、おなじひとつの世界であると気づかせる。そういうつくりの細かさも感じさせます。

何よりも、作品のメッセージの鮮やかさ。「君の名前はドイツ系で、僕はアイルランド系だ。その僕らをアメリカ人たらしめているものはなんだと思う。僕らが同意しているおなじひとつの規則、アメリカ合衆国憲法があるからだ。僕はそれを守りたい」

たとえ数十億人が裏切り者は殺せと叫んでも、憲法の一文がその命を守る。誰かが信念をもたなければ、誰かがそう声に出して言わなければ。ドノヴァン弁護士は、その法の守り手になろうとしたのだし、ひいてはそれは、この映画を撮ったスピルバーグ監督自身の姿でもあるのかもしれない。

冷戦時代の話だけど、今の時代に深くリンクしていて、見終えたあと、ずっしりくるものもありました。たくさんの人が見る機会をもてるといいな。

われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている。
http://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-majordocs-independence.html

原題:Bridge of Spies(2015年 アメリカ)
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:マット・チャーマン、イーサン・コーエンジョエル・コーエン
http://www.foxmovies-jp.com/bridgeofspy/

Bridge of Spies / TOMATOMETER 91%
http://www.rottentomatoes.com/m/bridge_of_spies/?search=Bridge%20of%20Spies