日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展 @ 東京都美術館

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何度目だモネ展。去年も西美でやってたし、しかも都美は混むしな、今年はええやろ。と思ってたけど、ちらほら聞くに、評判よさそうなので、混雑覚悟で行ってきましたよ。

閉館間際を狙うも、入場するなり絵までの行列。金星の雲かってくらい厚い人だかりに、数分で引き返して、音声ガイド機を借りました。これなら説明パネルスルーで、遠目からの鑑賞でいけます。ヴァロットンの版画の「ラリックのウィンドウ」って作品を思い出したりしました。

https://vallotton-graph.tumblr.com/post/110434589584/%E4%B8%87%E5%9B%BD%E5%8D%9A%E8%A6%A7%E4%BC%9A%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%A61901%E6%9C%A8%E7%89%88
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浮世絵からの影響という切り口だった西美のモネ展でしたが、今回の企画は画家の生涯という軸を意識した展示です。マルモッタン美術館は「印象、日の出」を収蔵していたことから、モネの遺産を継いだ次男ミシェルが作品を寄贈して、屈指のモネ・コレクションを有する美術館となったのだそう。

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クロード・モネ「霧のヴェトゥイユ」1903年

画家が手元に置き続けた作品、ルノワールの描いたモネ夫妻や、モネが描いた子供たちの肖像画など、画家にとって親密な作品がならびます。

授業中のいたずらで描いたことがきっかけで人気となったモネのカリカチュア(風刺画)、その若きモネを発見したウジェーヌ・ブーダンの素描、さらにはモネが収集したドラクロワやヨンキントの素描、ロダンの彫刻など、親しい人や、着想の源となったであろう芸術家たちの作品も。

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二階の展示室にあがると、少し人の流れはひきます。ここでは展覧会後期の展示、「ヨーロッパ橋、サン=ラザール駅」、そして睡蓮の作品群へとつながっていきます。ことなる光の中で繰り返し描いた「睡蓮」も、モネにとっては、私的な作品であったようです。

昼の明るい日差しに描いたものは、レンズの絞りをきかせたようにくっきりした像。明るい空を映す水面は光をはねて、木陰のおちるあたりは水底がうっすら透ける。その丁寧な描きわけが水鏡の表情となって、何時間でも見続けられそう。

この昼の睡蓮のすぐ近くには、夕暮れの水面を描いた作品が。刻々と変わる空の、その日いちばん美しい色を切り取る。絵は時をとめるけれど、移ろいゆく色彩の予感をはらむ、ゆらぎある一枚なのです。

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クロード・モネ「睡蓮」1916-19年/クロード・モネ「睡蓮」1907年

睡蓮の絵ばかりが展示された部屋には、描きかけのような作品がならびます。長らく発表されることのなかったこれらの作品を、モネや、絵を譲り受けた息子ミシェルも、完成品だとは思っていなかったのでしょう。一連の作品が評価を得たのは、20世紀半ば、抽象画が人気となってからだといいます。

目に見えるものを正確に写しとる絵画から、心の眼が見るものを描く印象主義へ。その主観的な眼がとらえた痕跡を眺めるようです。風景を見るという体験を絵画にしたモネは、やがて絵画そのものの中に体験を見つけていく。藤色の睡蓮からは、そんな印象を受けました。

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クロード・モネ「日本の橋」1918-24年

最後のフロアはバラの小道や、日本風の太鼓橋を描いた最晩年の作品が並びます。次第に造形を描くことを離れ、色彩へのこだわりが強く出てくるモネですが、ターナーの晩年もそうだと思い出したり。視力の衰えが疑われたターナーでしたが、モネもまた、このころ白内障をわずらっていたのだそう。

この作品群の、とくに日本の橋はとてもよかった。深くなってゆく夕闇に照る、燃えるような赤。この色彩は見えていたのか、それとも心にうつる色彩だったのか。色は見づらいけれど造形は見えると述べている言葉から推測するに、光を失いつつある画家の、色彩への憧れではなかったかと思いました。

自然な色の見え方を失うことをおそれたモネでしたが、周囲の説得もあって手術を受け、色彩を取り戻した時は、手紙にその感激の思いをしたためています。86歳の生涯をとじるまで、とりまく世界の色彩に感じいる感性は、瑞々しいままでありつづけたようです。

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そんなわけで、行ってよかったモネ展でしたが、混雑と知ってても出掛けたきっかけのひとつが、ちょっと気になってた「東北画は可能か」展が、おなじ東京都美術館で開催されていたためです。

もし東北が独立した国だったら?ーー明治時代の日本画の成立が、あらためて日本をかたちづくろうとした動きであったように、東北画で、東北にいきること、東北人としていきることに視線を向けていく。古い伝承や慣習、あるいは原発という東京と地方の関係性から紐解く「私たち」でい続けること。

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歴史的にも自然災害の多い土地で、自然の脅威や畏怖とともに生きていく。それ自体が、彼らのアイデンティティにもつながっているような気がしました。また、微細な表現が多いのも気になると同時に、惹かれるところでもありました。侘や寂や余白とはまたちがった、絢爛、華美の表現。

西美のモネ展も切り口など面白かったですが、今回の展覧会はモネの魅力を直球で感じられる展示でした。あわせて東北画展も見応えあった。人は多かったけど、覚悟して行けば何のことはない、かな。

マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展 「印象、日の出」から「睡蓮」まで
東京都美術館
会期 2015年9月19日(土)~12月13日(日)
休室日 月曜日、10月13日(火)、11月24日(火)
時間 9:30~17:30(金曜日、10月31日~11月2日は20:00まで)
※入室は閉室30分前まで