先月ポーラ美術館にいった際には、気になっていた岡田美術館にも足をのばしてみたのでした。
風神雷神図のお出迎えするエントランス。琳派あたりを中心にコレクションしてるのかな?というイメージがあったけれど、その範囲は縄文式土器から近代日本画まで。地域は国内にとどまらず、韓国や中国、琉球といった東アジアの美術をおさめる広いものでした。
時期によって展示品は変わるのだろうと思うのですが、私の行ったときは、室町時代から始まって明治までの作品をゆったり見れてとてもよかった。あまり聞かない作者名で、とてもいいものがいくつかあって、名品ながら大型企画展では出にくい作品ってあるのかもしれないと思いました。
上野の国立西洋美術館って、時代ごとに絵画を追っていくので、歴史の流れの上でみる作品っていろいろ気づかせてくれるものがあって、とても示唆深いのですが、それに似た楽しさがありました。
都内から出て午後について、二時間ほどでまわれるかな?って思ったけど全然足りなかった!今度は朝から巡るぐらいの勢いで行こう。
深川の雪
今回のメイン展示の喜多川歌麿「深川の雪」。遠目には、やけに大きな浮世絵だなあと思っただけでしたが、近づいて見て、しばらくちょっと見とれてしまいました。実際には大画面の肉筆画なのですが、「品川の月」「吉原の花」に次ぐ三部作として知られているそうです。
他の2作品もパネルで展示。とくに「品川の雪」は開けた障子の向こうに月の浮かぶ海が広がっていて、落ち着いた色彩で情緒があります。図録で「冷めた構図」と言っているのが面白かった。少し引いた固定カメラでとらえたような俯瞰の意識が感じられる構図です。
学資保険kuranomachi|おすすめ学資保険返戻率ランキング2021
2012/07 記事
対して「深川の雪」は、遊女たちの着物の赤が鮮やかで、華やかな一枚。線遠近法を取り入れた奥行きのある構図に、遊女たちの賑わいを並列に描き、あるいはこの時代にしか登場し得なかった、独特の構図となっています。
作品に描かれるのは女性ばかり。「品川の雪」では客の男性が障子の向こうに影で描かれますが、舞台はあくまで宿の裏方です。眺めてるだけで遊女たちの物語が浮かび上がってくるようです。
浮世絵に描かれる「遊女」というテーマもいいなと思いました。男性絵師が描く異性しかいない空間は、やはり一種のファンタジーに思えます。そこでは女性の強さや弱さ、甘さや辛さが、誇張されながら、それそのものがひとつの印象として、香りたつように描かれます。
春画と美人画
三階の展示は、長谷川等伯の流れを引き継ぐ長谷川派の作品から始まり、京の都を俯瞰図に描いた洛中洛外図屏風、さらには江戸の春画・美人画、喜多川歌麿と同時代に活躍した絵師の作品へと続きます。
春画が見れるなんて。本物はさすがに初めてです。小展示室の入り口に注意書きがありますが、意外なことに人がほとんどいなかった。家族や親戚でくる人が多くて、入りづらかったのかな。ひと気のない展示室でじっくり堪能しました。
葛飾北斎の春画は三大名品とされるもののうちのひとつだそう。展示の作品はちょっと意外で、手足の指が丁寧に描かれ、女性の体つきは肉を描くような量感ある曲線。北斎は西洋画を見て、女性の裸体の描き方を研究してたのではないか、などと思ってしまう一枚でした。
春画は3点展示されていましたが、渓斎英泉「十二ヶ月風俗画帖」が好みでした。陰部を誇張して描くのはどうやらお約束のようですが、どこか切なげな恋人たちと、季節感もあいまって、どことなく情緒ある連作でした。
美人画では、東は葛飾北斎、西は円山応挙の作品を並べています。応挙の気品ある美人画もいいのですが、市井の女性を描いたと思われる北斎の作品もとてもよかった。男性の着物が干され、足元には金魚鉢。夏の朝でしょうか。夫が起きる前の身づくろいかもしれません。
美術の支流
商人層が支えた江戸絵画は、話題性を好み、新しいもの好きで、表現技法に対して試行錯誤の楽しみが感じられました。そのエネルギーが感じられる江戸中期から幕末へと移ると、様相が変わってきます。
渡辺崋山は江戸後期から明治に活躍した絵師です。彼の死の数ヶ月前に描かれたという作品には、大きな虫がより小さな虫を狙う姿を描いており、時代が変わる境目にいて華山が何を感じたのか、思いはせずにはいられません。
華山が意識したのは、日本を取り囲む大国の存在だったかもしれません。あるいは、国内の混沌とした状況に辛辣なものを感じていたのでしょうか。いずれにせよ、おおらかな時代は過ぎ、大きな変化の中で緊迫した空気が時代を覆い始めます。
このほか、琉球や中国・韓国の作品も展示。岡田美術館は東洋美術と銘打っているとおり、展示品は国内美術に限りません。これは行く前のイメージと違う点でした。江戸絵画で多く描かれた虎の絵や、伊藤若冲が描いた葡萄の絵などは、朝鮮の作品を参考にした可能性があるのだそうです。*1
その朝鮮の虎や葡萄の絵などが見れる東洋美術のエリアもあって、むしろ日本の美術が単独のものではなく、近隣諸国からの影響をうけて育まれたものであることへの視点も、示してくれる構成となっていました。
日本にいて中国・韓国の美術にふれる機会は意外と少ないものです。若冲と蕪村展でも沈南蘋の作品を見れたことは嬉しかったのですが、東アジアの美術を知る機会がもう少しあるといいなと思いました。
さて、明治維新で一時は遠くなった江戸絵画でしたが、やがて西洋画に対する日本の美術という見直しから、日本画が生まれてきます。
昭和の時代になって、上村松園や鏑木清方によって再び美人画が描かれたとき、かつて風俗的な魅力を含んだ艶かしい美人画は、かつての時代の理想を描くような、楚々として洗練された、気品ある作風へと変わっていったような気がしました。
まとめ
このほか、縄文時代中期の火焔土器や長谷川派の作品に見るアニミズムや、狩野派が描いた風神雷神図がやたらかっこ良かったりして、伊藤若冲や森狙仙や森徹山、東山魁夷など、書ききれないけど、しっぽの先まであんが入ってる的な、隅々まで楽しめる岡田美術館でした。
2015年5月現在、大涌谷周辺では小規模噴火の可能性があるとして、気象庁が警戒を呼びかけています。岡田美術館は小涌谷駅にあるのですが、周辺施設とともに、警戒区域から2km離れている*2ということで、通常どおり開館しているようです。
4月に美術館へ行ってから、のろのろと記事をあげずにいたら、すっかりそんなことになってしまって、記事公開も迷ったのですが、やっぱり良かったので。深川の雪とか、春画とか、美人画とか。
あと、幕末明治を取り上げたダブルインパクト展や山種美術館の上村松園展があったり、都内で春画展が開催されるかも?というニュースを聞いて、後につながるものが多い気がしたので、ひとまずでも書いておきたくなったのでした。
今回の展示は8月までですが、展示が切り替わったらまた行きたいなあと思っていて、箱根山の活動も早く沈静化してほしいところです。