日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

日本軍の極秘潜水艦:ナショナルジオグラフィックチャンネル

ナショナル ジオグラフィック (TV)
* 2015年5月現在、再放送の予定は無いようです。(忘れた頃にふと再放送されることがあります)

ナショナル ジオグラフィック (TV)
* 関連して...「#6 日本 vs イギリス マレーの虎」2015/5/12(火)18:00- 5/18(月)10:30-

オアフ島沖の水深およそ800メートルで、潜水艇の操縦訓練中のハワイ大学海中探査チームが、それまで幻とされていた第二次大戦の残骸を発見した。
番組では三人の専門家が、日本軍の伊四〇〇の謎に挑む。

週末の朝たまたま見て、とても面白かった。
一時間ほどで見応えある。

書き起こしできそうな勢いで見ていたけど、せっかく近日再放送もある番組なので、備忘録程度ごく簡単にまとめる。

山本五十六伊四〇〇型潜水艦

特潜型潜水艦伊四〇〇の構想は、真珠湾攻撃直後から始まっていた。
真珠湾攻撃を立案・指揮した海軍大将山本五十六は、当初からアメリカの戦争には否定的であった。彼の目標は、アメリカに大打撃を与えて戦意喪失させ、早期講和に導くことだった。しかし、真珠湾への奇襲攻撃は結果的に、アメリカの戦意を奮いたたせることになった。
アメリカ本土を攻撃する作戦を模索した山本が目をつけたのは、大西洋で戦歴をあげていたドイツ潜水艦Uボートだった。
山本は敵本土への連続攻撃が、アメリカの人々に衝撃を与え世論を反戦へと導くのではないかと考えた。しかしそれには小型潜水艦では到底不可能である。爆撃機を搭載した空母なら理想的だが、ひそかに接近することは困難であった。山本は空母の攻撃力と潜水艦の隠密性をあわせもった強力な兵器——潜水空母の設計を構想する。

技術的難問

当時の潜水艦は、長さ100m葉巻型の細長い船体が標準的だった。
航空機を三機と格納庫を搭載して持ちこたえられるだろうか? 番組では海洋工学の博士が模型を用いて説明する。

伊四〇〇型潜水艦は1943年1月に竣工。平行して水密格納庫に搭載される戦闘機の開発が着手された。
新型機の名前は晴嵐。晴れた日にたつ霞を意味する。

戦闘機の設計には大きな壁が立ちはだかっていた。
甲板上に設置された格納塔の直径はわずか3.5メートル。この中に搭載機を納めようとすると、胴体は問題ないが、主翼や尾翼がおさまらない。日本の設計者は、アメリカ海軍の主力艦搭載機グラマンf6fヘルキャットに似た主翼の採用によって、この問題を解決した。

さらに問題はもうひとつあった。潜水艦が目的地に到着しても発進するまでに、エンジンを約20分温める必要があったのだ。潜水中にエンジンを始動させれば、排気に含まれる一酸化炭素で操縦士が危険にさらされる。しかし浮上後では、敵に感知されかねない。

艦上戦闘機F4U コルセアの28気筒エンジンは、晴嵐と共通の問題をもっている。問題は冷えたエンジンオイルの粘性にあった。では、あらかじめオイルを温めておいたらどうなるだろうか——。
第二次大戦中に開発された高性能エンジンの研究者の協力を得て、この問題と解決法を検証する。

技術的な問題を克服し、潜水艦作戦は順風満帆であるかのように見えた。しかし、日本の思惑とうらはらに戦局は展開する。

1942年、アメリカの拠点であるミッドウェイ島を攻撃した日本は、3日間にわたる戦闘の末、壊滅的な敗北を喫する。翌年4月、ソロモン諸島上空で山本五十六の搭載機が撃墜された。計画の推進者を失い、開発は一気に失速。山本が構想した空母潜水艦が完成したのは、それから一年後のことだった。

戦略的可能性

アメリカを和平交渉のテーブルに引き出そうと日本は必死だった。そこで浮上してきたのが細菌兵器であった。
1945年3月、晴嵐を使って西海岸を生物兵器で攻撃する作戦案の検討に入った。しかし参謀総長梅津美治郎は非人道的と見なしてこれを却下する。日本は攻撃目標を新たに探さなければならなくなった。

大西洋から太平洋に海軍を投入する軍事的要所、パナマ運河。ここを破壊すれば、船の航行は数ヶ月ストップする。しかしアメリカは太平洋を制覇しており、仮に敵の海域を渡り無事に辿り着けたとしても、目標であるガトゥン湖を高高度から爆撃するのは非常に困難だった。確実に成功させるため、過激な戦法が採用される。

戦争末期、日本の航空作戦は全て体当たり攻撃のかたちをとるようになっていた。この作戦も例外ではなかった。

日米双方とも秘密兵器の開発が大詰めを迎えようとする中、連合軍は東京からわずか1500キロの距離にある沖縄に侵攻しはじめる。82日間にわたる壮絶な戦闘で、本土決戦が避けがたいと判断した小沢中将は伊四〇〇の作戦を変更した。新たな攻撃目標はウルシー環礁。この海域には日本侵攻に向けアメリカ艦隊がぞくぞく集結していた。

8月17日の夜明け前に六機の晴嵐で体当たり攻撃を仕掛ける予定で、伊型四〇〇、四〇一ともに別ルートで合流地点へ向かっていた。だが、トラブルが起き急遽作戦を立て直そうとしていた矢先に、衝撃的なニュースが飛び込んでくる。アメリカがついに日本へと原子爆弾を投下したのだ。

6日後の15日、日本はアメリカに降伏する。8月16日、有泉に届いた電報は停戦を命じるものだった。

軍事開発競争

戦時中、アメリカは核兵器開発に邁進した。ナチスは数百キロ離れた都市に爆弾の雨を降らせる弾道ミサイルを開発。そして日本は本土攻撃でアメリカを降伏させる秘密兵器を検討していた。この戦争の当事国は大量破壊兵器と呼ぶものをそれぞれに開発していたのだった。

終戦後、伊四〇〇型潜水艦アメリカに接収される。
1945年12月、二隻の伊四〇〇型潜水艦は日本を出航、翌年1月、真珠湾へ到着した。しかし同年春にはふたたび秘密のベールが伊四〇〇型潜水艦を覆うこととなる。アメリカはソビエトへの情報流出を怖れたのだった。冷戦がすでに始まっていた。
3月31日、伊四〇一が真珠湾沖に沈められ、二日後には四〇〇も海没処分となった。

成果をあげる見込みがほとんどなかったにせよ、伊四〇〇型潜水艦は驚異的兵器だった。革新的な技術は核の時代とともに幕を開けた冷戦の潜水艦戦略におけるさきがけとなる。攻撃機の代わりに巡航ミサイルを甲板に装備した構造は核ミサイル搭載潜水艦の原型となった。伊四〇〇型潜水艦によってその後の戦争は大きく様変わりすることとなったのだ。

感想と補足

本編で興味ひかれたのは、技術者たちが難問を解決していくくだりや、パナマ運河を奇襲する作戦を検討していたというところ。なので、今回はその辺りを要点にしてまとめている。

結局長くなってしまったけれど、実は大幅に削った箇所もたくさんある。山本五十六潜水空母の着想に辿り着くまでに試行錯誤がいろいろとあったり、同時進行で進んでいたアメリカの核開発事情、米軍と伊四〇〇潜水艦との邂逅なども。
終戦直後、伊四〇〇型潜水艦は日本の沖合で拿捕された。そのときの様子を日米双方の当事者たちがインタビューで語っていて、当時の緊迫感や潜水艦に対する驚きなどが伝わってくる。個人的にはそのエピソードがいちばんの盛り上がりどころ。

あとは、生物兵器の開発。番組では山本五十六が戦争をよしとせず講和を目標においていたと再三述べていたり、潜水艦の技術を革新的だと好意的に評価しているけれど、生物兵器に関しては厳しい見方をしている。
番組関連のコメントが気になったこともあって、従軍慰安婦南京大虐殺と同じく過剰認識されているという意見もあるのかな? と思い、後からwikipediaの該当項目のノートを読んだりした。その辺まとめはじめたら長くなったので、別エントリーにした。

夏になると太平洋戦争の特集が多く組まれる。
今年はテレビ自体あまり見なかったけれど、これひとつで見きった感はある。
そういえば、「日本のいちばん長い日」も見た。本編自体も長かった。

同じナショジオチャンネルの「完全再現!史上最強の軍隊」というシリーズで「日本 vs アメリミッドウェー海戦」もとても面白かった。でもどちらかというと日本軍びいきかなあという人には、同シリーズ「日本 vs イギリス マレーの虎」の方がいいかも。
日本は優れた潜水艦や戦闘機を開発したのだけど、そのときすでに制海権、制空権ともにアメリカの手のうちにあった。その決定的な一戦がミッドウェイ海戦なわけで、なぜあの一戦で負けたのかというのは、考えさせられるものがある。

ともあれ、夏がまた終わるなあと思った。

ナレーションは伊武雅刀さん。

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F4U コルセアの28気筒エンジンで温めたオイルのテストをする人たち。

プロペラから離れろ!!
了解!
エンジン始動!
ごごごごご

楽しそうだった。