日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

東京都写真美術館&国立新美術館「モダン・ウィーン展」

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吉岡徳仁《ガラスの茶室》(国立新美術館 2019年展示)

都内美術館めぐりの旅、西洋美術館モダン・ウーマン展のあとは東京都写真美術館へ。
田舎に移り住んでから写真を撮ることが増えて、「撮ること」に今いちど向き合うつもりで、行きたい美術館リストに入れました。

東京都写真美術館ではフロアが3階まであって、それぞれ別の展示をおこなっています。

最上階3階では「TOPコレクション イメージを読む 場所をめぐる4つの物語」。コロラド州の人口2000人の町に派遣された医師に取材した写真は、モノクロの風味もあって、見入ってしまう展示でした。

一枚一枚は取り立てて特別なこともないスナップ写真ですが、そこに医師である男性の物語が重なることで、この一連のルポルタージュ写真は、当時大変に話題になったのだそうです。

100photos.time.com

私もこういった写真に惹かれる面がありつつも、作品として成立させるために、物語を必要としてしまう人の業のようなものを感じてしまうのでした。それは撮る側だけではなく、何よりも、見る側である私たち自身そのものに。

東京各地から月の沈む様子を撮影した山崎博「10 POINTS HELIOGRAPHY」も、個人的にはとても好みでした。天体の動きはただ力学的にただそう決まっているものですが、各地の点を一定のルールで並べると、新たな意味をもつように思われます。

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山崎博〈10 POINTS HELIOGRAPHY〉 1982年

地下1階では「世界報道写真展2019」を展示。これは図録を買おうか大変迷ったのですが、荷物が重くなるため断念しました。

世界各地での日常の切り取りが、そこで起こっている社会事象、事件、人々の悲劇(あるいは喜劇)を浮き上がらせて、正直、胸の苦しくなるような作品が多かったです。

私たちがニュースで知る世界が、ほんの一部であること。報道にものらない、その外側の世界で、多くの人が理不尽にさらされ、しかしそこを日常として、喜びと悲しみとともに生きていること。そうしてこの「切り取り」さえも、誰かの視点であり、ここに含まれない視点もまた存在するであろうこと。

写真というものの写すものの可能性、そして限界をふと思い知らされるような展示でした。

さて気を取り直して、夕方は楽しみにしていた森美術館へ! と思ったら塩田千春「命がふるえる」展70分待ちで、呆然として、森ビル3階のアンティコカフェでカフェオレを飲みながら作戦もといスケジュールを練り直し、ひとまず国立新美術館へ。

国立新美術館では「モダン・ウィーン展」をやっていました。今日はモダンづくしです。
ちょっと立ち寄ってさらっと見る予定でしたが、思わぬ面白さがあって、行ってよかったなと思いました。

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当時ヨーロッパの中心であったウィーンでは秘密結社フリーメイソンに入会することが、貴族や著名人の嗜みであったようです(※展示会からの印象です)。自由な精神などを礎とする秘密結社が人気をはくした背景には、ウィーンが受容してきた啓蒙主義がありました。

理性はこれまでの無知蒙昧な慣習から人々を脱却させ、合理的な社会の再構築をうながしました。その現れとして、機能的な建築、都市のあり方が現れてきます。

教会をはじめ公共建築は、神の威厳であったり壮麗さが重要でしたが、19世紀のウィーンでは合理性に秀でたものが作られるようになります。建築家オットー・ワーグナーは美術ホールや市営鉄道関連の施設などを手がけ、現在までつづくウィーンの街並みの基礎を作り上げました。

啓蒙主義からの合理性への展開と見ることもできますが、別の見方をすると、人々がアプローチできる世界が大きく広がり、そのためにはより拡張性の高い構造を必要とする段階に、社会のレベルがあがったと見ることができるかもしれません。

都市や建築、そうして家具など調度品がモダンデザインと変わっていくさまを追ったあとは、お待ちかねクリムトエゴン・シーレ、ココシュカと続くウィーンを代表する画家たちへ。

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グスタフ・クリムト「エミーリエ・フレーゲの肖像」(1902年)ウィーン・ミュージアム

妖艶な美女を描くクリムトが髭面のひょうきんそうなおじさんだったことで、ツイッターでちょっとしたネタになっていましたが、クリムトのイメージが私の中でもがらっと変わった展示であったことは確かでした。

ヨーロッパが前近代的な絵画の価値観を脱していく中、参考にされたのがジャポニズムでした。ただ、ヨーロッパの日本美術への関心は、彼らが新しい価値観をほっしていたおり、日本美術の非西洋的価値観を、その文脈にうまく取り込んだ面があるのだろうとも思います。

また、日本美術そのものが受け入れられたのではなく、パターンとして新しい手法に取り入れられたケースも多くあったでしょう。クリムトの絵画もジャポニズムの影響はもちろん、それ以上にギリシャ美術の影響が大きいように思います。

ところがクリムトの素描を見ていくと、当時のヨーロッパではとても人前に出せないであろうスケッチがあり、これは完全に春画を見ていたに違いない.......と思わせる作品が何枚かありました。そこがとても面白かった。思った以上にクリムトは日本の文化に新鮮な思いをもって向き合っていたのかも。

春画に描かれる赤裸々な性の描写は、ある意味では、クールベを超える自然主義であっただろうと思うからです。

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印刷技術の改良にともなってか、絵画のありかたも写実性ばかりでなく、複製に耐えられるデザイン性へと移り変わっていくように思いました。

建築や調度品に始まった機能主義は、このあと表現主義バウハウスへと時代が移っていくはずですが、その辺りはウィーンというよりドイツの軸の話かな。ウィーン・モダニズムの流れからその先の時代も興味がありましたが、展示された作品をさらっと見るだけになりました。

今回ひとつ不満だったのは、華やかなウィーンがどうして崩壊していくのか、「世紀末ウィーン」までの道のりまでは追っていなかったところです。でも感想をまとめていて、少し思うところもありました。

ウィーンはコスモポリタンとしての都市のありかたを理想としていました。当時それだけの勢いを持っていたということなのだと思います。オーストリアはかつてハプスブルク帝国として、その広範囲の領土から「日の沈まぬ」帝国といわしめ、制度的にも大きく進歩した国でした。

ミュシャの生涯を追うことで気づかされたのですが、オーストリアは強大な国である反面、多くの民族を抱え、彼らに対する抑圧的な政治から、幾たびもの民族蜂起を経験してもいました。

オーストリアの最後の皇帝となったフランツ・ヨーゼフ一世の生涯をおうと、帝国を守ろうとする保守的な彼の周囲はしかし、自由を信奉し、多様な民族を尊重すべきだと考える、革新的な思想の人々が多かったことに気づかされます。

もちろんオーストリア帝国が複数の民族を抱えていたこと、大英帝国はじめ他国が勢力を増していたことなど、要因はいろいろあると思いますが、今回のモダン・ウィーン展をへて見ると、それは人々の、個々人の自由を尊重する価値観が、強大な帝国を崩壊させるみちびきとなったのではないかと思わずにいられないのでした。

それが良いことか悪いことか。簡単に答えを出す前に、たとえば被抑圧者側だったミュシャの人生、ヨーゼフ一世の弟でメキシコ帝国の皇帝に就任したマクシミリアン皇帝の人生を追ってみるとか、多様な見方が必要かなと思います。

啓蒙主義やコスモポリタニズムをへて新しい時代をもとめるリベラルの思想が、ひとつの帝国を終焉に導いたという見方は、いささか物語くささがあります。それが果たしてすべての人にさいわいをもたらせたか。そうではないところに歴史の皮肉があります。しかしそれでも、私たちの世界は以前のままでいられなかっただろう、ということも同時に考えさせられるのでした。

美術館といのは、世界を見る窓であり、ことなる時代を見る窓でもありますね。ひとつの展示で答えを出すのではなくて、自分の考えや思いを胸にとめて、また別の窓を開ける日を楽しみにしたいと思います。

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夜はそのまま六本木で、むかしの会社の人と変わり素材の中華料理店へ。

以前、大学の同級生と来たときに「普通の料理がいい」と不評だった悲しい思い出がありますが、ここを紹介してくれたその人は、羊をはじめくさい料理が好きということもあって、久しぶりで楽しみ! と喜んでくれたので嬉しい。

私は羊料理は苦手ですが、ここのお料理は美味しいし、中国茶で割ったお酒がたのしい。ローズ茶ハイと白酒レモンサワーでひととき六本木の夜の時間を楽しみました。

参考URL
bijutsutecho.com

Nr.45 シェーンブルン宮殿の五芒星 | コラム | ドイツ語技能検定試験 Diplom Deutsch in Japan
http://www.dokken.or.jp/column/column45.html

Mozart con grazia
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/et/mason.html

Country Doctor | 100 Photographs | The Most Influential Images of All Time
http://100photos.time.com/photos/country-doctor-w-eugene-smith

東京都写真美術館:TOPコレクション イメージを読む 場所をめぐる4つの物語
http://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3410.html

東京都写真美術館世界報道写真展2019
http://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3437.html