日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

「邂逅の海―交差するリアリズム」 @ 沖縄県立美術館

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やんばるアートフェスで出かけてきた沖縄本島への旅、スケジュールに余裕があったので、合間に美術館へいってきました。すごく有名な作品があるわけではないけれど、沖縄の近代から現代までのうつりかわりを、美術作品をとおして見るのはとても楽しかったです。

「邂逅の海―交差するリアリズム」と題した今回は、沖縄と台湾のアーティストを取り上げた展示会。なかでも内観的な水平線をかたちにする水谷篤司さんの作品には、もの派を思わせるミニマリズムの要素があって、音楽的なリズムも感じられ、個人的に好みの作品でした。

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愛華さんの木彫りのオブジェもよかったです。留学中にプレッシャーのため倒れてしまった経験から、帰郷して見た沖縄や台湾の風景をベースに、緊張と癒しの両面をあわせもった作品をつくったのだといいます。曲線の多いフォルムもそうですが、作品がひとつの世界観をつくっている「箱庭」の感じも、より癒しを感じさせるのかもしれません。

展示品の中でとくに気になったのが、ナイフやフォークに蝶がとまったり木の芽がはえたりしている、照屋勇賢さんのオブジェでした。微細な造形にも目をひかれましたが、日用品と自然という意外な取り合わせにもわくわくするものがあります。

言葉とアートをテーマにしたエリアでは安谷屋正義という画家を知りました。彩度の低い背景に針のように細い線がものの影をかたちづくっています。真っ白の紙に一本の線を引くだけで、余白が空間に変わる。その線によって空間の奥ゆき、湿度、緊張感が変わっていく。

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内省的で感覚を重視した作品の多い中で、社会的なまなざしがあったのがジュン・グェン=ハツシバ、袁廣鳴らの映像作品。311をきっかけに、台湾にも原子力発電所があることを思い起こし制作したという袁廣鳴のビデオアートは、美しいビーチからドローンカメラが視点をあげていくと、すぐそばにある原子力発電所が映し出されます。

間にさしはさまれる空撮の廃墟は、原子力発電をいだく私たちの世界が、つねにはらむ可能性のビジョンでしょうか。あるいは発電所をうしなった世界のイメージなのかもしれません。見る人によって受け取り方は広がりそうです。今ある現実を冷徹に切り取る風景のおさめかたがとてもよかったです。袁廣鳴さんの作品はもっと見てみたいなと思いました。

常設展は「彷徨の海―旅する画家・南風原朝光と台湾、沖縄」。展示会の軸になったのは南風原朝光という沖縄出身の洋画家で、当時日本でも多く追従された後期印象派の影響がみえますが、南風原さんの絵画は、色面の力強さなど特徴的でした。

昭和初期の池袋には各地から芸術家たちがあつまり、さながらパリのモンパルナスのようであったといいます。南風原朝光も池袋によりあつまった一人ですが、上京して貧乏暮らしをしていたルンペン詩人、山之口貘とは、同郷ということもあって大変気があった様子。池袋の居酒屋で飲んで、いい気分になってくると三線をひきながら琉球舞踊を踊ったりしたのだそう。

ふたりが入り浸った居酒屋のうち「おもろ」という居酒屋は、今でも営業を続けているようです。知らなかったな。池袋の思い出を記した山之口貘の原稿があって読み込んでしまう。

戦後の画家たちの作品は、ぐっと社会的なまなざしが強まります。ある意味で日本と融和していた戦前と比べ、戦後は深層で日本からの”自立”を余儀なくされたとも言えるのかもしれません。

さらに戦後、日本や沖縄とは異なる道をあゆんだ台湾の画家たちを紹介。展示では2010年に設立された台湾美術院のメンバーたちの作品がならびました。

戦後の台湾の絵画には中国美術のながれと抽象画の影響がみられますが、とくに水墨で現代台湾の風景を描く江明賢が目にとまりました。筆の強弱が表現する線の表情のゆたかさ。微細な情感のある太い線と、丁寧に描きこまれた細い線が画面の遠近をつくりだします。そこに淡い色がのって、何時間でもみいってしまえそうな作品でした。

近いようで遠い沖縄と台湾。ふたつの文化圏の交流はふたたび試みられているのだそうで、その流れで展示されていた作品では、奥原祟典さんの森羅万象をきりとった抽象画がよかったです。

さいごの部屋では沖縄の写真家たちを紹介。伊江島での平和運動をひきいた阿波根昌鴻の、カメラマンとしての側面をきりとった展示に足がとまります。

米軍による土地の強制接収に抵抗して、畑に出かけていって耕作を続けようとする住民。土地に入ったら射殺してもよいと銃を持って立たされたガードマンの青年ーー阿波根さんが伊江島で写真を撮り続けたのには、米軍との戦いに証拠を残すことが必要だと考えたからだといいます。

頭ではわかっていることでも、写真ひとつひとつを見ることで、当時の人々の心情への想像力がふくらみます。写真のちからの大きさを感じた展示でした。

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次の予定があったのでそろそろおいとま、と思っていたら、少し離れた別室で古いフィルムの上映をしていました。作品はウルトラマンの脚本でしられる金城哲夫さんが、円谷プロに入る前に監督した「吉屋チルー物語」。琉球王朝時代の遊郭の女性と士族の男性の悲恋の物語です。

全編とおして沖縄の方言が使われ、音楽も琉球音楽。近世の沖縄の風景や遊郭の様子が描かれていて、とても興味深かったです。母親のもとを離れるチルーの悲しみや、仲里按司が親切で友人に着物をとりかえてやったことからチルーと再会することになる流れなど、観ているうちにどんどん話に引き込まれていきます。

金城哲夫さん、当時は24歳くらいでしょうか。玉川大学を卒業してまもなく、制作意欲に湧くひとりの若者の熱が伝わってくるようでした。

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あいまに美術館併設のカフェにいきました。カメカメ・キッチンというのは亀のことではなく、沖縄のおばあがよく「噛みなさい」と言って絶え間なく食べ物をすすめることから、「カメカメ攻撃」という言葉があるのですが、そういう流れからきているのかな。

カフェではパスタセットをいただきました。バイキング方式でついてくるサラダに三種類のドレッシングがあって、これがおいしくて、しばしばおかわりに立つ人が絶えないのも納得です。

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那覇新都心は、米軍基地土地返還からの再開発で、今いちばん賑わいのある場所という話は聞いていたのですが、映画館があり美術館があり、カフェがあり。日中は美術館で過ごして、夜は映画館に行きました。沖縄本島にすんでいたら足繁く通っただろうなあと思う場所です。

台湾の美術作家たちの作品を観れたこと、沖縄の美術の文脈にふれることができたこと。満足できた美術展でした。現代アートの展示では撮影可のものも増えているので、美術館は基本撮影不可っていうのを思い出したりして。今回はおもに記憶をたよりにイラストを描きました。おめよごしを詫びつつ感想とします。


関連情報

「邂逅の海―交差するリアリズム」

山之口貘と池袋

阿波根昌鴻・金城哲夫

その他