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日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

速水御舟の全貌 ―日本画の破壊と創造―@ 山種美術館

art

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私が美術館に行くようになったきっかけのうちのひとつが、山種美術館速水御舟展です。

山種美術館はその後も通って、いちばん行った美術館なんじゃないかなと思う。小さな美術館なので、二三年しばらく通っていると同じ作品に出会ったりする。同じ映画を何回も見に行く人がいるみたいに、同じ作品に再会すると、ちょっとうれしくなる。目新しいものばかりじゃなくて、馴染みの一枚に会いに行くというのも楽しい。

そうと言っても速水御舟の「炎舞」は、ここぞというときにしか出展されません。山種美術館の収蔵品のなかでも、きっと特別な一枚なのでしょう。その「炎舞」の展示となる今回の速水御舟展。ここはやっぱり行っておかないと。

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速水御舟「翠苔緑芝」山種美術館蔵 *2015年の内覧会のときの写真の使い回し

今回ちょっと意識したのは、作品が何歳のときに描かれたのかということでした。というのも、作品名とあわせて制作時の年齢が書かれてあるのです。その存在感からつい忘れがちですが、御舟の享年は40、「名樹散椿」はじめ代表作はほぼ30代に描かれています。スタイルの確立が見えるのは20代後半のころ、30代後半からは新たな画風に向けての模索が感じられます。

何度か見ている作品でも、見るたびに感じるものは少しずつ違いますね。娘の誕生を祝って描かれた「桃花」は、茎がほのかに赤みがかって、固く閉じた蕾も淡い桃色に薄く色づいている。開花を待って凝縮する自然の生命力を感じます。今回の展示の中で惹きつけられた作品でした。

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もう一つ新しい発見があったのは、琳派にならった御舟でしたが、その中でもとくに鈴木其一が大きな存在だったのではないか、ということでした。と思っていると、図録におさめられていた山下裕二さんと板倉先生の対談のなかで、まさしくそのことへの言及があり、今回の展示じたい、鈴木其一がそれとなく意識されているのではないかと思ったのでした。

たとえば今回出展の「向日葵」は、畠山記念館にある其一の三本の向日葵をほうふつさせます。其一の向日葵を見たときは、20世紀*1に行ってゴッホのひまわりでも見てきたのかというほどのヒマワリ感でしたが、朝顔に向日葵と、思えば園芸品への関心が高かったのかもしれません。

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速水御舟日向葵霊友会妙一コレクション

さらには木蓮を描いた作品は、其一の「木蓮小禽図」と重ねずにいられません。あえて比べると其一の装飾性に比べ、御舟のものは落ち着いた雰囲気ですが、しかし花弁のはらりとほどける表情は、「桃花」にも共通する、草花の秘めるかすかな揺らぎが感じられます。

もうひとつ挙げると、習作として展示されていた御舟の貝の絵は、やはりプライス・コレクションにある其一の貝の作品を思い起こさせるのです。図録ではその他の作品の例なども挙げながら、御舟と其一で論文が一つかけると述べられていましたけれど、ぜひ読みたいですね・・・。

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左)鈴木其一「木蓮小禽図」岡田美術館(*参考)/右)速水御舟「木蓮(春園麗華) 」岡田美術館

其一の緻密な描き込みと装飾性は、御舟にもつながるようにも思いますが、時を止めたような其一と、風の動き出すひととき前をとらえるような御舟と、私には正反対の画家のようにも思えて、それだけに御舟が其一のどこに惹かれていたのか気になりました。

御舟周辺の画家の作品を展示しても良かったのかもしれませんが、今回は手探りの時代の作品も展示され、あえて御舟という一人の画家にしぼった観があります。御舟の人生が向かおうとした先の、余韻を感じさせる並びとなっています。横山大観の言葉にもありましたが、もしもっと長く生きていたら、いったいどんな作品を生み出したのだろう。

図録はもう増やさないと決めているのですが、速水御舟の身近な人との付き合いのある山崎館長ならではの、御舟のエピソードを交えた文章や、美術評論家の山下さんと東アジア絵画史を研究さてれている東京大学の板倉先生の対談が大変におもしろくて、結局買ってしまいました。

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対談の中でのお話にもあったのですが、私じしん日本の絵画を見るときに、中国や韓国の美術からの影響という目線が欠けていることを、もどかしく思うことがあります。御舟と其一の共通点というのも、辿っていけば南院画に行き当たるようです。

もう一つ図録で感じたのは、絵の前に立って見るのと、印刷などで見るのでは感じるものが違うということです。とくに速水御舟の作品は、画面のつやのようなものがあり、山種美術館の照明もまた画面の質感を引き立たせるようにあてているのです。

「名樹散椿」の金地のマットな照り、「葉蔭魔手」に描かれる蜘蛛の巣は、角度によって銀のきらめきが見えます。ひときわ暗い空間で向き合う「炎舞」の妖艶なほどの輝き。写実性のみならず、こうした質感の工夫もまた、描かれるものの命の重みをとらえようとする御舟の、飽くなき挑みがなせる業なのでしょう。

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次の予定まで時間があったので、閉館間際に併設のカフェで和菓子をいただきました。展示にあわせて意匠を凝らした和菓子が並びますが、ここはやはり「炎舞」をイメージしたお茶菓子を。お抹茶もありましたが、蘭茶というのが珍しかったので、そちらを注文。塩漬けの蘭をお湯で戻したもので、桜の塩漬けに似てるかな。塩味が甘い和菓子にぴったりでした。

速水御舟の全貌 ―日本画の破壊と創造―
2016年10月8日(土)~12月4日(日)
山種美術館
午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 月曜日
入館料 一般1200円
【開館50周年記念特別展】 速水御舟の全貌―日本画の破壊と創造― - 山種美術館


夕方は、音楽を聴きに国際フォーラムへ。アルトネリコというゲームがあるのですが、詩魔法なる特殊能力のあるその世界では、ヒュムノス語とよばれる言語があって、ゲームの世界のために、単語や文法などが細かく作り込まれているのです。

劇中歌や主題歌を志方あきこさんやKOKIAさんといった、邦楽のなかでもワールドミュージックっぽい曲を歌う人が担当していたりします。ワールドミュージックといえばアイルランドの歌手Enyaが代表格ですが、彼女の音楽はボーカルの録音を幾つも重ねて、あの幻想的な雰囲気を作り出しています。カメラで長時間露光すると、光の具合がぼんやりするのに似てますね。

志方あきこさんも多重録音で作曲される方で、すごいのは、それでライブもしていることです。もちろん分裂して歌うことはできないので、多重音声の録音をバックコーラスに歌うのですが、ライブ感覚のあるステージを再現するのは、なかなか簡単ではないだろうなあと思います。

そんなわけで今回はKOKIAさんの、”リクエストは多くてもライブでは歌えなかった多重録音曲”のステージに行ってきたのでした。お経を聴いてて思い浮かんだという「ゲマトリア」や、ヒュムノス語の楽曲「EXEC_COSMOFLIPS/.」など、いつもの声や楽器の素材を味わう演奏とはちがうけれど、ライブでは聴けないだろうなと思っていただけに興奮しっぱなしでした。

EXEC_COSMOFLIPS/.

EXEC_COSMOFLIPS/.

  • KOKIA
  • サウンドトラック
  • ¥250

コンサート名は「LAYERS」、アレンジしたボーカルのトラック(レイヤー)をいくつも重ねるところから来ているのだろうと思います。「レイヤーを重ねる」という概念の普及がちょっと面白かった。デジタル処理をしない時代には、きっとなかった言葉ですよね。

DVDも発売されるみたいで、ちょっと遠い席だったので、どの声が録音で生の声か分からないところもあって、これはDVDで再度楽しもう、と今から発売が待ち遠しいです。

関連URL

*1:ゴッホの連作ひまわりの描かれたのは1888年ごろでしたが、評価を受けたのは死後すぐの1990年以降でした。