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日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス-さざめく亡霊たち @ 東京都庭園美術館

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しばらくぶりに東京都庭園美術館に行きたいなと思っていたところのクリスチャン・ボルタンスキー展でした。雨ばかりのこの頃、ようやく晴れの週末だったので、ちょっと目黒まで。

以前に庭園美術館へ行ったときは、人が多くてあまりゆっくり鑑賞できなかったのですが、午前の早いうちに足を向けた今回は、静かな邸宅内を堪能できました。

てっきり展示は新館のほうだと思っていたので、邸宅のあちこちから聴こえる"ささやき"にびっくりしてしまう。かつては宮家の邸宅だった旧朝香宮邸、その時のはざまに落ちてしまったような不思議な空間。舞台芸術も手がけるというボルタンスキーならではの空間演出です。

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ここに住んだ人、招かれて訪れた人、そんな誰かに成りきりながら邸宅内を周るのは楽しい。

大きな客間は、晴れた日にはテラス戸を開け放って、たくさんのお客さんをもてなしたにちがいありません。階段を上がりきった二階のホールは、大きな北窓から光が差し込んでほのかに明るい。ここでは、姉妹やお手伝いさんたちが、つい立ち話をしてしまう風景を思い浮かべたり。

邸宅に暮らした人々と、ボルタンスキーの仕組んだ生と死の気配が重なる。プリズムに乱反射する光のように、クローズアップされた名もなき人たちの声は、この邸宅にまつわる誰かだったかもしれないし、私自身にまつわる誰かなのかもしれない。

邸宅内を二周ほどして、さて新館へ。《帰郷》《まなざし》の2つの作品が同時展示される室内は、旧朝香宮邸の作品がそうだったように、鑑賞者をその内側に引きずり込んでいきます。

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金色の山のオブジェは、浅草の隅田川沿いにあるスーパードライホールの金のオブジェを思い起こしてしまうのですが、赤裸々な生を包む黄金という歪さを描いているのかしら。と思っていたら、うんこではなく、中身は古着が山になったものらしいです。当たらずとも遠からず、かな。

その山を取り囲む"眼差し"のカーテン。旧朝香宮邸の"声"もそうでしたが、どこか被害者と加害者という関係性を思い浮かべてしまいます。その境界の曖昧な場所に立っている。無数の視線の主は、いびつな社会の被害者か、無関心な加害者か。私が立っているのは、どちら側だろう。

そんなどきっとさせられるインスタレーションを抜けたあとは、少しほっとする映像作品です。イネ科の枯れ草が敷き詰められ、屋外の匂いを演出しています。《アニミタス》はチリの砂漠、《ささやきの森》は香川県豊島の森に風鈴のさざめく様子を映し出す。

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これも何を感じるかは鑑賞者の感性に委ねられそうです。ボルタンスキーは、地上のどこかにその場所があるという「神話」を作りたかったのだと言います。地球上のどこかで響き続ける音、それはひとりの美術作家の演出にすぎないけれど、その"神話"は作家の生を超えて生き続ける。

《アニミタス》は「小さな魂」という意味だそう。鈴の音は誰かの命に呼応しているのだと考えてみる。私たちの生と死に呼びかけ合う、どこか遠い土地にある永久機関のような存在。

ところがスクリーンの裏にまわると、そこにあるのは、森のなかに木漏れ日と木々のさざめき、セミの声にまざりあって、風鈴の揺れ続ける映像です。はるか遠い土地に厳然としてある鈴たちとちがって、うっかり立ち入ってしまえる場所に、人の命を律する鈴の音がある。

チリの砂漠の風鈴は人の営みの外側にあるようで、豊島の森の風鈴は営みの内側にある。遠い場所に神様がいるのと、そこらじゅうに混ざり合っているのとの違いみたいで、とても面白く、しばらく見入ってしまったインスタレーションでした。

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作品のパンフレットもゆっくり読みたかったので美術館のカフェへ。ちょっと高めかなあと思って敬遠してたけど、一度は入っておきたいよね。もちっとしたパンと、バジルソースの野菜ソテー、コンソメスープ。オレンジとショコラのシフォンケーキ。美味しかったです。

庭園をぷらっと歩いて、目黒にきたついでで畠山記念館へ。と、道すがら附属自然教育園という森林緑地があり、つい立ち寄ってしまう。この日寒いかなと思ってショートブーツできたのが間違いで、ここで体力を大幅に消耗してしまった。季節の変わり目で花もちょっと少ない。

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よろよろたどり着いた畠山記念館。閉館まぎわで人も少なく、静かな館内でしばし一休み。12月初旬くらいまで「天下人の愛した茶道具」展をやっています。千利休をはじめ、織田信長豊臣秀吉の所持であった茶道具を展示するもの。桃山文化の品々の展覧会です。この時代、茶入れひとつが一国一城の価値とも言われました。

本能寺の変ののち、焼け跡から円乗坊宗円が拾い出して所持したという「古瀬戸肩衝茶入 銘 円乗坊」、秀吉の所持だったものが、のちには徳川家の品となる「唐物肩衝茶入 銘 星」。秀吉が茶杓の反りを強くつけようとして失敗し、打ち捨てようとしたところを侍医の特雲軒が貰い受けた「落曇」、信長の所持したことにより「信長」の銘となった井戸茶碗、などなど。

桃山文化の以前にあるのが、室町時代に足利家によって収集された唐物名物、東山御物です。権力の元で育まれた美は、天下人をめざした信長、秀吉には尚更もとめてやまないものだったのでしょう。高みをめざしたときに、強烈にあらわれる美のへの焦燥、あるいは憧憬。

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畠山記念館/もう少しすると紅葉の季節。お抹茶(500円)もいただけるので、来館は早めの方がいいのだ。

そんな権力者の思いとは裏腹に、美術品たちは彼らの生を超えて、この静かな展示室で数百年前と変わることのない呼吸を続けている。

畠山記念館は古びた公民館のような雰囲気がありますが、そこがとても好きで、空調も強くないフロアで古美術を見れるのが心地よいです。ショーケースの中は空調管理してると思うけれど。

ふと思ったけれど、むかしお茶の先生の家に通ってたときも、室内にあまり空調効かせてなかった気がする。夏は夏の、冬は冬の空気が満ちている感じ。友人は、寺は広いからな(全室に空調きかせるなんて)やってられへんねん、って言ってたから、そんな理由かもしれないけれど。

天下人の愛した茶道具
畠山記念館 10月1日(土)~12月11日(日)
午前10時~午後4時半(入館は午後4時まで)
休館日 毎週月曜日、11月4日(金)
入館料 一般700円(600円)
お抹茶 500円(干菓子付き)※午前10時より午後4時まで展示室にて随時
国宝「煙寺晩鐘図」(伝 牧谿筆)展示期間:11/5~11/20

庭園美術館の華やかな雰囲気を味わったあと、日本庭園をかまえた畠山記念館の侘びの空気でしっとりする。ふたつの建物はちょっと距離はあるけれど、好きな取り合わせ。晴れた週末の理想的な一日でした(歩き疲れた以外は)。

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