読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

あいちトリエンナーレ 虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅 @ 豊橋市内のまちなか

f:id:mventura:20160912113608j:plain

あいちトリエンナーレめぐり、最終日は豊橋市

豊橋市の見どころは水上ビルという、水路の上に立ち並ぶビルです。既存不適格建築物とのことで、老朽化が進んでも長らく建て替えが困難であったよう。時代に取り残された昭和の建物は、名物建築として今日までその姿を残しているのです。

豊橋市には路面電車も走ってます。農業用水路・路面電車と、ひとつの自治体で生活インフラのサイクルが完結している、アクアリウムみたいな雰囲気はいいな。

f:id:mventura:20160912122252j:plain

なるべく効率的にまわりたいと地図とにらめっこして、路面電車を知ったので、ここはやっぱり乗っておきたいよね! 電車で二駅目の新川で降りると、トリエンナーレの会場となっている水路上建築物群のうち、大豊ビルの東端が接する田原街道に着きます。

ぐっと奥まで続く直線がたまらない水上ビルです。その一画にぽつと出ているオレンジの看板を発見する。イグナス・クルングレヴィチュスはノルウェーを拠点にする作家。真っ暗な室内で、スクリーンに浮かぶ文字と、時おり差し込まれる背景色でストーリーが展開していきます。

f:id:mventura:20160912120414j:plainf:id:mventura:20160912122543j:plain

彼の質問と彼女の応答で、会話の状況が次第に明らかになってゆく。制限された環境におかれて展開していくストーリーに、鑑賞者の思考も飲み込まれてゆくようです。

外界を遮断した上で、単調でインパクトの強いイメージの反復を見ていると、思考はじょじょに映像に入り込んでいき、主観まで取り込まれるようなスリリングさ。上映後、外に出てホッとする。ソリッドシチュエーションアートと、勝手に名前をつけてみた。

ここで水上ビルから離れて、開発ビルへ。専門店をはじめ、行政機関、企業オフィスの入る商業ビルです。昭和40年代に作られ、長くこの街とともにあった建物ですが、今後は市街地開発の一環で取り壊し、整備される予定にあるようです。

f:id:mventura:20160912130542j:plainf:id:mventura:20160912131217j:plain

この堅牢なコンクリート造りのビルに、たまらない味わいがある。バブル建築といえば全面ガラス張りの建物だったりするけれど、どんどん華奢になっていく近ごろのビルとは正反対。厚い壁に鉄製の扉と、がっしりしたつくりに、昭和中期の建築の理念を感じるよう。

開発ビル10階の今は閉館した豊橋文化ホールを舞台に、ノスタルジックな空間を存分に使って展示されるのは、石田尚志さんの渦巻く光です。かつて街の賑わいとともにあった建物が、今はただ静かに夢見る、過ぎ去りし華やかな日々。過去という美しい幻をたゆたうような時間です。

f:id:mventura:20160912131822j:plain

小ホールから大ホール、化粧控え室、放送室など、いたるところまで渦巻きの光が行きわたる。大ホールには、横浜美術館で見たさまざまな色彩の模様を描いて展開していく映像が展示。場所がことなると、また違った味わいがありました。

トリエンナーレ展示のボリュームは、メイン会場の愛知美術館をのぞけば、次点でここがずっしりしてるのではないでしょうか。それに加えてビル内部の階段や非常扉や給湯室、エレベーターホールといった一画のどれもが絵になって、つい建物ばかりにカメラを向けてしまう。

f:id:mventura:20160912134044j:plainf:id:mventura:20160912135331j:plain

東海道中膝栗毛をベースにした映像作品は、初めは「これもアートなの。水曜どうでしょうがアートかどうか聞いたら、アートだという人わりといそうだから、まあいいのかな」と思いながら見てたのだけど、一回ネタにはまってしまうと、すごい面白かった。

東海道中膝栗毛も滑稽味が持ち味だから、古典を踏まえているんだろうな。弥次が北(喜多)を化け狐だと思い込んでしまう話にかけて、「本物を見分けよう」とチャレンジする二人。

f:id:mventura:20160912141447j:plain

ダンボールでできたトンカチは、トンカチと答えるべきかダンボールと答えるべきか。いったいどこからトンカチはトンカチになるのか…そのやりとりに、ひとり笑いをこらえて恥ずかしかった。沸点低いのかな。

ボイラー室のような、ひときわ狭いスペースで展示されるのは、シルクロードの風景と人々の写真。かつては文明の通り道だったキルギスから中国までの大地は、中国とロシア、イスラム圏のはざまにあって、現在ここを行き交うのは、共産主義とか資本主義とか、産業廃棄物とか。

f:id:mventura:20160912141804j:plain

白熱灯の薄明かりのなかで、遠い土地の色鮮やかな民族衣装、深い光と影を見る。翻弄される土地で生きる人びとを切りとる一枚一枚は、この古びたビルの質感になじんで映ります。

変わりゆく時代と無関係でいれるほど、人は強くない。国と国、時代のはざまの、いびつによれた場所や世代に生きていかざるを得ない、それでもそこにある生の姿。

f:id:mventura:20160912141912j:plainf:id:mventura:20160912142815j:plain

映像作品もあったのだけど、写真の展示スペースがあまりに良くて、狭い空間をうろうろしてしまった。壁にやきついた煤もまた趣ある。なんの用途の空間だったのだろう。

トリエンナーレすべての会場でも開発ビルはとくに良かったのだけど、その中でベストをしぼるなら、石田尚志さんの渦巻く光か、久門剛史さんのインスタレーションかな。どちらも展示空間を活かして、光で空間を描くような展示です。

カーテンがならぶフロアでは、時おり思い起こしたように扇風機がまわってカーテンをゆらし、ぽつと光がともる。おもわず息を潜めて見守ってしまう。

f:id:mventura:20160912150124j:plain

窓のむこうは、どこにでもあるようにありふれていて、でもどこでもないような街の風景。殺風景なフロアに西日が差し込んで、夕方どき幻想的な光景でした。

開発ビルはこのほか、ハーバード大学感覚民族誌学ラボの映像をビーズソファでくつろぎながら見れるという、休足もってこいの展示もあるのですが、水上ビルの散策が途中だったので、早めに切り上げて、名残惜しくも開発ビルをあとにしました。

さて、ふたたび水上ビルです。キューバを拠点にする美術作家の、不要になったセメント袋で作った雑誌は、人の手を介して流通されるのだそう。雑誌を作るときの暗黙の前提に、アンチテーゼを向ける作品のようです。

f:id:mventura:20160912154729j:plain

子どもの頃、外国のお菓子の包みやジャムのパッケージで、スクラップブックを作っていたのを思い出しました・・・。

それはそうと、この展示スペースとても良かった。水上ビルの多くのテナントは、ガラス戸の向かいもガラス戸になっていて、自然光いっぱいのお店が多いのです。商店街の青果店や煙草店なども情緒あっていいのですが、なかなか勝手にカメラを向けれず。代わりにここで存分に撮る。

もっとも駅にちかい水上ビルの会場は、100匹の小鳥を放し飼いにした建物に、人の方がお邪魔するというもの。鳥の巣の中に入っていくような妙な緊張感がある。

f:id:mventura:20160912160725j:plainf:id:mventura:20160912161035j:plain

近く取り壊す予定の建物なのかな。中では鳥たちがずいぶん好き勝手に飛び回っていました。
驚かさないように、そっと近づいてみるけれど、やっぱり逃げちゃう。諦めて屋上に出ると、金網の向こうに同じ種類の鳥(文鳥?)がいて、野生の文鳥たちが遊びに来ているっぽかった。

この屋上がまた良かった。採光窓、物干し竿、アンテナ、古びたいろいろなものに緑がはびこっている。人間がつかの間の繁栄を謳歌したあとは、植物や微生物たちが都市を静かに覆い尽くすのでしょう。そんなことを思わせる風景を、せっせとカメラにおさめました。楽しかった。

f:id:mventura:20160912161612j:plain

朝から来たのに、もう夕方! すっかりお昼を食べ忘れていたので、駅方面に向かう途中にあった喫茶店に立ち寄りました。ウッディ調で、年季も入った雰囲気のあるお店。店内はジャズが流れていて、ゆっくりできる空間です。

空腹だったので、パスタと温かいカフェオレを注文。やっと一息つけました。豊橋市の会場数そんなにないと思ったのに、じっくり見ていたからかな。すっかり夕方になってしまっていた。

f:id:mventura:20160912170526j:plain
grotta 店内風景 *許可をいただいて撮影しました。

ついつい長居したくなる喫茶店でしたが、とよはし芸術劇場PLATなどもこのあと残っているなあと、暗くならないうちにお暇しました。とよはし芸術劇場PLATをぷらっとまわったあと、新幹線の切符を買いに行く。

発車を待つシートから外を見ると、午前中見た田園風景の緑とちがって、夜の近づく青の夕暮れです。ポケットにあるのは現実への片道切符。マレーネ・ディートリヒが映画モロッコで買ったのは、現実から逃れる片道切符だったというのに。


関連情報

戦後ヤミ市の移転であった水上ビル。適合させて建築することが難しいため、再生措置を図れずにいる、ということのようです。

水上ビルについて、Wikipediaより詳しかったので。

開発ビルについて、成り立ちから今後の予定まで、簡単ながら密度の濃い情報のある記事でした。
平成30年度を目処に「豊橋市まちなか図書館」として建て替えられ、水上ビルも、店舗をこの商業施設に移転した後に整備される予定だそうです。
新施設の場所は、トリエンナーレ会場の「開発ビル」「はざまビル大場」も含む、駅前大通二丁目地区。ノスタルジックな商店街の風景が惜しい気もしますが、老朽化も進んでいますし、致し方ないところでしょうか。建物好きなら、開発ビル、水上ビルの姿のあるうちに行っておきたい豊橋市です。

豊橋市の駅前を紹介するサイト、デザインも素敵です。その中の、私が今回行ったジャズの喫茶店を紹介しているページです。