日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

あいちトリエンナーレ 虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅 @ 名古屋市内の美術館とまちなか

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堀田商事株式会社 | コレクティブ・アジア-オキュパイ/生存権/ユーモア

楽しみにしていた、あいちトリエンナーレに行ってきました。

芸術祭に行くのははじめて。人の多いところは避けがちになってしまうのですが、今回プロジェクトで参加されている三木学さんのブログを、前から読んでいたこともあって、夏休みがてら行こう! と決めていたのでした。

発表された会場・アーティストを見て、三日あっても足りなさそう…と怯みましたが、貧乏性もあり、スケジュールつめつめにして出発。いつもはゆっくりじっくり見る方なんですが。

どの作品も見応えあって、けれど急ぎ足になりながら、ものすごい勢いの感性とか思考のシャワーを浴びてきた感じです。なるべく簡潔に、感想を。
 

名古屋市美術館

まずは、名古屋市内でいちばん開館の早い名古屋市美術館へ。入り口ではジョアン・モデの参加型インスタレーション、朝早くからちらほら糸を結ぶ人の姿が。

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名古屋市美術館 | ジョアン・モデ / 佐藤克久 展示風景

国際美術展ということで、さまざまな国の作家たちの作品が集まる芸術祭、名古屋市美術館ではメキシコのマリアナ・カスティーリョ・デバルの、古代と現代がクロスオーバーする彫刻・絵画作品がよかったです。

それから佐藤克久のカラフルな色彩が踊るような絵画。電気が発するノイズ? がまるで虫の音のように音を奏でる小杉武久インスタレーションも、無機質なものが有機質なふるまいをするようで、とてもおもしろかった。

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名古屋市美術館は踊り場の窓とかエレベーターエリアとか、建物のちょっとした空間もいい感じ。

コレクション展はトリエンナーレのコンセプトにあわせた内容で、トリエンナーレのチケットで見ることができるというので、じゃあついでに、と思ったら、これがすごい良かった。

まずは故郷を離れ異郷での生活を余儀なくされた人たちの写真、戦時中に日本へのがれたユダヤ系の人々と、満州国のロシア人の集落を撮りおさめた作品にはじまります。

その他にも、メキシコ革命を時代背景におこった「メキシコ・ルネサンス」にまつわる作品、パリの異邦人たち「エコール・ド・パリ」の企画ではシャガールの版画「寓話」も良かったし、ジョン・ケージの7日間の時間の流れを表現したエッチングも。

宮島達男のデジタルカウンターの作品は、原美術館で同シリーズのものを見たことがあるけれど、改めて見ると、円環を描く数字の連なりが、数という音楽を奏でるように思えたのでした。けれども耳を澄ませても聴こえるのは空調の音ばかり。その時、可聴音と入れ替わりに、聴こえるはずのない数字の音が浮かび上がってくる…という夢想で暗闇に立つ。楽しい時間でした。
 

栄会場

すっかり満足したところで、一日はまだ始まったばかり。体力のあるうちに行っておきたかったのが、栄エリア、中央広小路ビルです。沖縄と北海道、日本の北と南の端は文化の境界線でもあります。遠いようで似通った宿命を抱いてきた、2つの土地がここに交差する。

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中央広小路ビル | 「交わる水-邂逅する北海道/沖縄」 D:端 聡 展示風景

ここではミヤギフトシさんの新作が公開されている、ということで。もう、半分はこのために愛知に来たようなもので。五つのモニターに映るストーリー。短編小説のような映像がつむがれていき、断片のひとつづつが、やがてひとつの問いかけになる。

五つの物語にはそれぞれ、音楽の引用が出てきます。けれど映像に音楽はなく、絶えまなく流れるのは、沖縄や北海道、長崎、マカオ、マニラといったさまざまな土地の潮騒。同じ海なのに、色も違えばさざめきも違う。その異なる音色の響きを聴くようでもあります。

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中央広小路ビル  | 「Dreams that Have Faded」 (2016)ミヤギフトシ 展示風景

天正遣欧少年使節としてローマへ渡った四人の少年それぞれのその後を追いながら、はたして自分ならどの選択を選ぶだろうかという問いを、10年ぶりに再開した友人との会話に描いていく。心地よい表層とうらはらの、底の見えない問いかけ…感想はきっと長くなるので、別の機会に。

広小路通をはさんで1ブロック先には旧明治屋栄ビル。ここもとても良かった。全会場は行けないけど栄・長者町エリアも少しは行きたいって人は、真っ先に候補にいれてほしいところ。

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明治屋栄ビル | 寺田 就子 展示風景

寺田就子さんの、透明ないろいろなものが配置された部屋は、その中にいるだけでも楽しいですが、透明なものたちに、ついじっくり向き合う自分にも気づかされます。(駆け足だったので、じつはそんなにじっくりではなかったけど)

中央広小路ビルの企画「交わる水-邂逅する北海道/沖縄」も受け持った端聡さんは、ここでは液体から気体となる水の循環をテーマにしたインスタレーションを展示。明治屋ビルのレトロな建物の雰囲気が、しっかり活かされた展示でした。

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明治屋栄ビル | 「液体は熱エネルギーにより気体となり、冷えて液体に戻る。そうあるべきだ。」端 聡

ここから歩いて長者町エリアに行って、自転車タクシー愛知芸術文化センターに行くのが賢かったかもしれないですが、長者町エリアのほうが閉館が19:00と少し遅めでしたので、後回しにして、徒歩で愛知芸術文化センターへ向かったのでした。
 

愛知県美術館愛知芸術文化センター内)

あいちトリエンナーレのメインと言ってもよさそうな愛知県美術館、展示数がもっとも多い会場です。午後になり、けっこうな来場者数。ぽつぽつ撮影を控える展示もありました。

パプアニューギニア生まれのタロイ・ハヴィニの作品は、さまざまな素材でつくられたビーズでつくるスパイラル構造のオブジェ。南太平洋の石貨がモデルで、さまざまな素材には交換のイメージをもたせているようです。

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愛知県美術館 10F  | タロイ・ハヴィニ 展示風景

螺旋状のオブジェがつくる影が、作家の故郷の山々の稜線を表しているという説明がありましたが、そこも面白かった。知の体系や風景の記憶といった、祖先が育んできたものを保存する装置のようにも見えたのでした。

愛知芸術文化センター10F展示のなかでは、松原慈さんの、盲学生たちがつくる陶磁器作品がよかったです。もっと楽しくてポップな作品も沢山あるのですが、どうも私は感覚にまつわるテーマが好きなんだと思います。

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愛知県美術館 10F  | 松原 慈 展示風景

モロッコの盲学生たちに「昨日見た夢を教えて」と尋ねても、誰も教えてくれない。でも「心に浮かんだものを好きに形にしてみて」というと、みんな思い思いに形をつくり始める。その内なる視力に思いをはせる。

点字が読めない指で、私はあなたにどのように触れているのだろう」という作者のことばは、晴眼者に欠けがちな、別の感受のはたらきに気づかせるようです。

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愛知芸術文化センター 11F  | 田島 秀彦 展示風景

装飾タイルをもとにした田島秀彦さんの展示は、カラフルなシートを通した光が回廊を染め上げて、夢のなかにいるような空間。ただし西日が暑くて、それも含めて別世界のようでした。

アイヌにまつわる展示もぽつぽつあった今回、思えばエスニシティをテーマにした作品が多かったかな。愛知県の県境の土を収集した味岡伸太郎さんの展示も、地質という一見無機質なものを並べるようでいながら、土地と人の結びつきを浮かびあがらせる。

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愛知県美術館 8F  | 「マライーニ家の鏡-民族学者と20世紀日本」 / 味岡 伸太郎 展示風景

地形や歴史から人の心性に結びつく、土地がもつ不思議な力。中央広小路ビルで見た「ゲニウス・ロキ(地霊)」のことばが、ここにもつながってくるように思いました。

じつは時間がなくて8Fは翌日午前にまわしたのですが、この記事ではこのまま続けて書きます。

シンガポール生まれのチャールズ・リム・イー・ヨンは、もとセーリングの選手。英国で発展したヨットが、故郷の古い時代にもあったことを知ったことが、作品制作のきっかけとなったそうです。短い映像ですが、身体ごとの操作とともに進んでいく帆船の姿に見とれてしまう。

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愛知県美術館 8F  | チャールズ・リム・イー・ヨン 展示風景

複数人で体をつかって船を操る様子は、今の時代に非合理的に映りますが、呼吸を合わせることだったり、風や波を読むことだったり、その行為のなかに、世界を獲得していくことのゆらぎが潜んでいるように思えるのです。

駆け足のつもりなんですが! もう少しあります。フランス出身のマチュー・ペルノの展示は、長くつき合いのあったロマの家族が主題。ひとりの青年の死に際して、彼の生きた記憶をとどめる写真や、ロマの慣習で故人の所有していたキャラバンを燃やす、その映像を展示しています。

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愛知県美術館 8F  | マチュー・ペルノ / 田附 勝 展示風景

”自分たちと相容れない集団の現実を表すイメージの力”とのべられたこの作品の芯にあるもの。個を丁寧に見ていくことにしか、決めつけでなく人と接していく方法はないのかもしれません。

肌感覚に他者を知っていく。いくつもの側面からものごとを見ていく。他者を知ることへの手がかりが、ロマのコミュニティに生きた青年への眼差しにあるように思います。

田附勝さんの東北の漁村や鹿猟を撮影した作品も印象に残りました。命を摘みながら生きる彼らだからこそ、他のものの生命との距離感を正しく保てるのかも。虫一匹を怖がりながら、肉は食べる私たちは、他のものの生命とのバランスを、どこか欠いているかもしれない。

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愛知県美術館 8F  | オスカー・ムリーリョ /「アーティストの虹-色景」D:三木学

多様性そのままにおのおのの感性があること。世界各地の子どもたちの落書きや、アーティストごとの無意識にひそむ色をカラーチャートにする展示を見ると、「虹のキャラヴァンサライ」のテーマが全体に行き渡っていることを、改めて感じられるようです。

非西欧の流れにある国々の作品が目立った展示会、これまで中心であったものごとの周縁にいる人々や、その文化をすくいあげる展示が多く見れた印象でした。行く前はイベントごとと思う気持ちがあったのも正直なところ、見終えてみれば濃密な作品ばかり、すごいです。
 

長者町会場

感想が小学生っぽくなったところで、夕方足をのばした長者町エリアをちょいちょいとまとめて、名古屋市内編の締めくくりとしたいと思います。

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昭和な雰囲気がすてきな喫茶クラウンは、お店に入ったところ(土曜日は)16:00までなんですと言われて、だいぶがっくりしました。一休みしたかった。

とぼとぼ歩いて長者町エリアにくりだす。この辺りで良かったのは、今村文さん、佐藤翠さんなど女性作家の作品のある八木兵錦6号館。佐藤翠さんの鏡に色模様をつけた作品は、室内に反射光がおちて、空間ごととてもきれい。今村文さんのバラ色の蜜蝋画も、夕方の青い色彩とあいまって、古いビルが幻想的な光景に変わります。

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八木兵錦6号館 | 今村文 展示風景

伝馬町ビルは映像作品がまとまってあるビル。すっかり日もくれてから行きました。繊細な感性にひたる八木兵錦6号館から一転して社会風刺の強い作品。そのギャップが面白かった。

メインの展示と思われる、頭のなかで韓国語の声が話しかけてくる日本人女性が「じつは自分はゾンビなんじゃないか」という事実に気づいていく物語は、日本語、英語、韓国語が入り混じり、会話は笑ってしまうところあるのだけど、語学に通じてないとなかなか何とも。

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伝馬町ビル | *キャンディ・ファクトリー・プロジェクト 展示風景

一方、ポルノ依存症を不安に思う男女の、内面の告白的な動画はとてもおもしろかった。ポルノに気軽にアクセスできる環境に怖れつつ、その怖れは妥当なのか、性欲の強さよりも、性に対する罪悪感のほうが悩みの根本ではないか。さらに「僕は僕や同じ境遇である他の誰かを救いたい」という声は、作り手の本心か創作上のネタなのか、気になるところです。

このプロジェクトの映像は、セリフの字幕が矢継ぎ早に現れるのが特徴ですが、せわしないほど見入ってしまうものですね。その手法も面白いなと思いました。

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学書ビル | ナターシャ・サドゥル・ハギギャン

すっかり疲れきって、抜け殻のようになってホテルへ向かう。行く前にリストアップした気になるもののうち、映像プログラムが時間があわず全然見れなかったのが残念。近くに住んでいると、週末ごとにちょろちょろこれるのかな。いいな。

一日でこれだけ沢山の展示を見たのははじめてでした。なにせ東京現代美術館に朝から行って見きれなかった経験があるくらい、ゆっくり派なので…。ホテルについたらまっさきにお湯をためて、湯船でマッサージしました。翌日めざすは東岡崎です。