日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

宇宙と芸術展 @ 森美術館

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森美術館の2016年後半期の展示は「宇宙と芸術」展。平日の夜に行くことが多い森美術館ですが、いつも時間が足りなくなってしまうため、今回は週末早くから行ってきました。六本木界隈をぶらっとして、夕方頃にいざ美術館へ。

宇宙という大きなテーマを、さまざまな断片からめぐっていく。コンセプトがっちりというよりは、思索をめぐらせながら、楽しんで見る感じ。ふらっと見たわりには、書きたいことがたくさんあるので、文字も写真も多めの記事です。

入ってまず出迎える曼荼羅は、仏教においての宇宙の姿。まだ私たちがどんな世界に住んでいるか、客観的な見方のなかった時代、感覚という主観的なものからとらえていく宇宙。それを後世や、遠く離れた土地の人々へ伝えようとしてきた跡のようにも感じました。

感覚の宇宙から、観測によって解き明かされていく宇宙へ。展示はまず東は日本、江戸時代の国友一貫斎、渋川春海に関連する品々が並びます。ここ撮影禁止なのが本当に残念でしたが、一貫斎の筆で記した太陽の黒点や月のクレーター観測の記録には、思わず感嘆の声。

http://kousyou.cc/archives/6798

国友一貫斎という人は、鉄砲鍛冶職の家に生まれ、その技術を生かして反射望遠鏡を作ってしまったそう。私むかし、家にあった望遠鏡でうっかり満月を見てしまって、トラウマになっているんですが、江戸時代に望遠鏡で月を眺めた一貫斎は、いったいどんな心境だったのでしょう。

渋川春海の天文図も二点展示。一貫斎の筆のものと違って、こちらは版画なので、作らせたといった方が近いのでしょうか。映画・ドラマ化もされた渋川春海ですが、私は小説しか読んでなくて、それでも天文にかける情熱をひしひしと感じただけに、関わりのある品を見れると嬉しい。

気になってたけど行けずじまいだった国立科学博物館の企画展。

そんなところで、西洋の天文学史に移っていくのですが、その前にもう一点、鉄隕石で作られた刀「流星刀」の展示が。流星刀は世界でもいくつか例があるそうで、日本ではロシア大使だった榎本武揚が、ロシア皇帝の秘宝として存在を知ったことがきっかけだったようです。

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岡吉国宗流星刀》1898年 所蔵:東京農業大学図書館/撮影:木奥惠三

ただ、実際につくり上げるには大変な苦労があったようで、実用というよりは、物好きな人の愉しみといったところでしょうか。心なしか刀の先も厚みのあるような。それでも「流星からできた刀」というと、霊力でも宿っていそうで、中二心をくすぐられますよね。

いっぽう西洋ではレオナルド・ダ・ヴィンチ「アトランティコ手稿」に、天体の動きを考察するメモが残されています。アトランティコ手稿はダ・ヴィンチのアイデア帳のようなもので、描画のそばに鏡文字でメモが綴られています。鏡文字の方をしげしげ眺めたり。

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ガリレオ・ガリレイ《水彩による月の位相の素描 改訂版「星界の報告」原稿》1610 フィレンツェ国立中央図書館
の、ハガキ ほか

展示はついで、天文学者コペルニクスケプラーガリレオの地動説をめぐる書物へ。ガリレオが異端審問にまでかけられたのは、天体観測による丁寧な考察に強い説得力があったのもひとつかもしれません。望遠鏡で覗きこんだ宇宙を、水彩やペン画の美しいスケッチとともにしたためたガリレオの「星界の報告」は、その前でしばし物思いにふけってしまいます。

ルネサンス期の自然科学の隆盛は、それまでの世界観との軋轢にもなったのですね。展示からは離れますが、地動説でもう少し踏み込むと、私好みだったなあと、勝手なことを思いました。

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アイザック・ニュートン『自然哲学の数学的原理(プリンキピア)』1687年 /金沢工業大学ライブラリーセンター
*このほか展示はダーウィンの「種の起源」含め、すべて初版本とのこと。

たとえば、地動説を否定しなかったために火刑に処された修道士ジョルダーノ・ブルーノ。彼は天文学者ではありませんが、それだけに彼の"無限の宇宙"のインスピレーションには詩的なものが感じられます。あるいは、新しい社会のあり方をもとめて、天文学と宗教の関わりあいに理想を見出そうとした、哲学者トンマーゾ・カンパネッラ。

http://kousyou.cc/archives/4661

どんな抑圧も、未知への好奇心を奪うことはできないこと。知的好奇心が、この世界を切り拓いてきたこと。

と、そんなところで一部が終わって、次いでは宇宙を題材にしたアート作品の展示です。画像は超ひも理論から発想をえた円環の輪。紐って言うより、弦っていうほうが近いらしいですけど。

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森 万里子《エキピロティック ストリング II》 2014年/作家蔵

岐阜県にあるニュートリノの研究施設スーパーカミオカンデ光電子増倍管内部を宇宙に見立てた? 写真家アンドレアス・グルスキーの「カミオカンデ」もよかったです。

カミオカンデといえば、前にTBSラジオのたまむすびで、物理学者の多田将さんが「重力波」について話す回があって、すごいおもしろかった! 分かりやすいのもだけど、ピエール瀧さんの知識が豊富で、瀧さん宇宙好きなんだなあと。

それから、映像作品もいくつかあるので、ゆっくり楽しみたいところ。太陽の活動を映像と音で感じる映像とか。これは太陽風を感じればいいのかな。

琥珀に閉じ込められた昆虫に、地球外生命体の可能性を夢想する映像。やっぱり他の惑星の生命体って虫なんだろうな。
あと、未知の天体をCG再現した映像も、面白かったです。

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瀬戸桃子《プラネット∑》 2014年/作家蔵

似たようなコンセプトで、ダーウィン4って架空の惑星に、アイク、レオ二機の探査機が降り立って、彼らの目から星の生態系や自然現象を見ていくっていうドキュメンタリー番組があったのを思い出しました。CG映像を楽しむものだと思って見ていると、二機の無人探査機にどんどん感情移入していってしまうんですよね。

アイク、レオの名称も、ニュートンダ・ヴィンチからとったと思えて、彼らは私たちの地球から未知への好奇心を託されて送り込まれた使者なのだと思うと、愛着ひとしおなのです。

http://video.akahoshitakuya.com/v/B000BX4BXS

さて、最終章は宇宙旅行の可能性をさぐる展示へ。冷戦時代、米ソが競った宇宙開発。月に降り立ったときの通信の記録をはじめとした資料的展示、宇宙旅行をテーマにしたアート作品まで。

ちょうど前日みてた番組で、「アメリカの宇宙計画はソ連を出し抜くためだけのものだった。しかし理由はなんであれ、人類が宇宙にいくことで、得難い収穫もあった。それは地球という惑星のはかなさに気づいたことだ」と言っていまして、きれいなまとめだなあと思いました。

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ヴァンサン・フルニエ
《火星砂漠研究基地 #11、火星協会、サン・ラファエル・スウェル、ユタ州アメリカ、2008年》作家蔵

そんなシニカルな思いにもさせられる宇宙開発ゾーンですが、いまは大きく予算を削られた宇宙計画にも、夢を抱く人びとの熱い思いは変わらないものですね。

18世紀フランスの建築家、クロード・ニコラ・ルドゥーの夢みたニュートン的宇宙の姿、その隣はコンスタンチン・ツィオルコフスキーが監修した映画「宇宙旅行」に寄せたスケッチ。など、宇宙への熱い思いを押えながら、月や火星に人が住むなら、といったシミュレーションへ。

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クロード・ニコラ・ルドゥー『芸術、風俗、法制との関係の下に考察された建築』、第一巻(1804年)
金沢工業大学ライブラリーセンター

かつては国家プロジェクトとして進められた宇宙開発計画でしたが、現代では民間企業が先導となってる印象がありました。惑星移住計画の試案もコンペティションで募集されます。

現地の素材から住居をつくる月滞在計画もよかったですが、火星に住むアイデアは、丁寧にシュミレートされていて、とても面白かったです。水や氷が放射線を通さない性質を利用した住居で、見た目も美しい。それにしても昨今の宇宙計画では、3Dプリンタ大活躍でした。

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スペース・エクスプロレーション・アーキテクチャ・アンド・クラウズ・アーキテクチャ・オフィス
《マーズ・アイス・ハウス》2015年/作家蔵

展覧会のメイン、チームラボのインスタレーションは、真っ暗な部屋全体に映し出された映像と音楽で、宇宙を浮遊する感覚を体験できる。くらっとする感じが苦手な人は、目を瞑って、音楽だけ楽しんでもいいかも。

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チームラボ《追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく - Light in Space2016》

長々と書きましたが、展示品はわりとあっさりした説明で並べてあって、展示のテーマをがっつり読み込む派としては物足りなさもありました。ただ、散文的にある展示品からどういう物語を浮かび上がらせるか、おのおのに任せられている度合いが高いといえるのかも。

せっかく宇宙にまつわる展覧会でしたので、夕暮れ時に合わせてスカイデッキへあがりました。夏の空は独特の色がありますね。みるみるうちに夜空に変わってしまって、もう少し早い時間にくればよかった。

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夏といえば、やっぱり宇宙。という気持ちになって帰ってきました。

宇宙と芸術展
森美術館
10:00-22:00(火曜は17:00まで)
※10月21日(金)は翌朝1:00まで、10月22日(土)は翌朝6:00まで
※いずれも入館は閉館の30分前まで
※会期中無休
入場料 一般 1,600円

宇宙と芸術展 | 森美術館

*会場内の写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。


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シン・ゴジラの冒頭で、牧教授の部屋に残された「春と修羅」が出てきますが、あのシーンは牧教授の行動の動機(義憤、というのでしょうか)をあの一冊で説明しているのだそうです。
春と修羅」を書いた宮沢賢治が、あまねく人々の「幸い」に深く心を傾けた人であることは、彼のいくつかの詩や童話からも分かると思うのですが、シン・ゴジラで引用された「義憤」の文脈をあらためて感じたものに、トンマーゾ・カンパネッラの存在がありました。
哲学者トンマーゾ・カンパネッラは、「銀河鉄道の夜」の主人公の親友カムパネルラの名前の由来と言われています。もしもその通りであれば、なぜ賢治は彼の名を引いたのか。
ルネサンス時代のカンパネッラの思想は、今の私たちからすると少々受け入れがたいところもあるけれど、コスモポリタニズムな理想主義の傾向のあった賢治にとって、社会主義思想の先駆けのような理想郷や、苦難に代えても生涯かけて民衆のための社会への変革を夢見たカンパネッラの純粋さに、ある程度の共感があったのかもしれません。