日々帳

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映画の感想 - ソング・オブ・ラホール

パキスタンの映画というと、昨年見た「神に誓って」という作品がとても良かったので、イスラム教と音楽文化というところにも通ずるものを感じて、これはぜひと見に行ってきました。

古都ラホールの伝統楽器の演奏者たちが、ジャズ楽曲のカバーをYoutubeにアップしたことで話題になり、NYでビッグバンドと共演することになる。これまで隠れるようにして音楽を続けてきた彼らに訪れた突然の大舞台。果たして演奏を成功させることができるのか。

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©2015 Ravi Films, LLC

「神に誓って」では、音楽デュオの兄弟のうち弟が、過激派の教えに傾倒し音楽から離れていきます。マリ共和国の古都ティンブクトゥを舞台にした「禁じられた歌声」でも、ある日イスラム過激派に占領された街の人々が、歌をはじめ文化を奪われていく様子が描かれました。

パキスタンでの文化への抑圧は、1970年後半からのハク政権下におけるイスラム化によってはじまりました。さらにソ連アフガニスタン侵攻に抵抗するムジャヒディーンに、米国がパキスタン経由で武器支援を行いますが、紛争後、大量に残った武器を手にタリバンがおこります。

こうした状況でパキスタンでは映画・音楽産業が大きく衰退し、製作スタジオも閉鎖されていくのです。楽器の維持もままならなず、生活のために音楽を手離した人も少なくない。その苦境の中でも、伝統楽器の演奏は親から子へ、細々ながら伝えられていきます。

古都ラホールは、ムガル帝国にその文化が花開き、イスラム王朝の交易と文化の中心地となりました。その豊かな文化が、この時代に失われようとしている。ラホールの伝統楽器の演奏者たちをとりまく状況は、彼らが手を離せば途絶えてしまう危ういつながりで、しかしその困難に挑んでも、報われる兆しのない厳しいものです。

新しい聴衆を得ようと西洋のハーモニーに挑戦しますが、彼らが行き着いたのはジャズでした。なぜならジャズは彼らの伝統音楽と同じく即興の音楽だから。また、伝統音楽の”旋法”もアレンジの中で活かせる。こうして試みた楽曲がネット上で話題になり、BBCに取り上げられます。

Take Five

Take Five

  • Sachal Studios Orchestra
  • ジャズ
  • ¥150

ここから、トランペット奏者ウィントン・マルサリスの招待でビッグバンドと共演という展開になるのですが、厳選メンバーで訪れたニューヨークでは、本場の厳しいリハーサルに自分らしい演奏ができず、ホスト側も渋い顔…果たして、このまま舞台に立てるのだろうか。

そんな流れからの本番、ドキュメンタリーならではの緊迫感すごかった。演奏はじっくり見せてくれるので、さながらライブビューイングのよう。東西の奏楽のかけあいなど感嘆ものです。

指揮者のニジャートは、父親から継いだスタジオを誇りに思っています。そこには報われることのなかった父の人生がある。父から子へ譲られてゆく魂の物語がかいま見える。

人はアイデンティティの輪郭として、文化を欲するのだと考えていましたが、それ以上のものもあるのだと気付かされました。たとえ先に見える光がか細くても、彼らは音楽を手放さず、新しい展開を模索し続ける。音楽の中には彼らの歴史があり、父や祖父の生き様があるから。

黒人音楽がソウル・ミュージックと呼ばれるようになったゆえんを、パキスタンの音楽家たちに発見するようでした。

ソング・オブ・ラホール
原題 Song of Lahore
2015年 / パキスタン アメリカ
監督 シャーミーン・オベイド=チノイ 、 アンディ・ショーケン
配給 サンリス ユーロスペース
上映時間 82分

映画 『ソング・オブ・ラホール』公式サイト

タリバンについて「何なんだあいつら」「いったいどこから来たんだ」と言ってたのは少し笑ってしまった。昔から土地に暮らしている人たちからすると、どこからともなくイスラムを掲げて現れた人たちに映るのかな。彼らにとってのイスラムは、ずっとラホールとともにあったのだ。

関連情報

9月3日(土)東京国際フォーラムで行われる第15回東京JAZZで、サッチャル・ジャズ・アンサンブルの無料コンサートが行われるそうです。

その費用をクラウドファンディングで募集していて、そのリターンのひとつに、参加者だけに催されるプライベートコンサートがあり、ちょっと気になっていたのですが…ああ、もうSOLD OUTですね、、