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日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

邦画について思うこと

考察

時事ネタはなるべく書かないというのが、ブログを始めた時の決めごとだったのですが、今回は自分の思うところを整理する意味でもまとめようと思います。この記事を書いている間にいろんな時事的出来事があって、話題はすこし風化した観がありますが。

邦画がやばいという記事が話題になっていまして、それに関連して製作サイドの関係者が、現場はがんばっているんだぞ!味噌汁作ったりしてとツイートして、話題をさらにヒートアップさせました。

www.sankei.com

私も邦画にはつまらないというイメージがあって、映画が好きな後輩に「邦画つまんないよね」と言ったところ、「今は邦画バブルなんですよ」と返されたことがあります。2年ほど前の会話です。
「洋画の方がやばい、上映本数減ってるし、地上波で放映される枠も減ってる」と。

邦画バブルなんて聞いたことないし。半信半疑で検索してみて、顕著な数字に驚いた記憶があります。

以下は日本映画製作者連盟のデータより、邦画・洋画の興行収入の数値を抜き出したものです。2000年以前は興行収入ではなく配給収入の数値となるらしく、表では2000年以降をあつかっています。

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2002年から右肩あがりだった邦画の興行収入は、07年前後に洋画と拮抗して、08年以降は逆転、震災のあった2011年は落ち込みますが、翌年持ち直して、近年は横ばいといったところでしょうか。

では、実際にはどういうタイトルが見られているのか、過去3年分を邦画・洋画上位3タイトルまで抜き出してみました。

2015年
邦画 興収 洋画 興収
1 映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン! 78 ジュラシック・ワールド 95.3
2 バケモノの子 58.5 ベイマックス 91.8
3 HERO 46.7 シンデレラ 57.3
2014年
邦画 興収 洋画 興収
1 永遠の0 87.6 アナと雪の女王 254.8
2 STAND BY ME ドラえもん 83.8 マレフィセント 65.4
3 るろうに剣心 京都大火編 52.2 ゼロ・グラビティ 32.3
2013年
邦画 興収 洋画 興収
1 風立ちぬ 120.2 モンスターズ・ユニバーシティ 89.6
2 ONE PIECE FILM Z 68.7 レ・ミゼラブル 58.9
3 映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館 39.8 テッド 42.3


アニメをはじめ子ども向けの作品が多いことに気づかされます。2014年は「テルマエ・ロマエ」(興行収入4位)を含めて、実写化タイトルがヒットした年でもあります。洋画はディズニー映画が目立ちますが、2015年「ジュラシック・ワールド」も、ファミリー層に当たったのだろうと推測できます。

ちなみに「マッドマックス 怒りのデス・ロード」は興行収入18.1億円の13位で、「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」の方が32.5億円と上回っています。ブックマークコメントで評判の良かった「海街diary」は16.8億円、河瀨直美監督「あん」、塚本晋也監督「野火」は掲載がないので興行収入10億円以下なのでしょう。(日本映画製作者連盟のデータは10億円以上の作品)

数値を見ていくと、映画の売上げを支えているのは、いまやファミリー層ではないかと気づかされます。さらに言えば、たとえば熱烈に支持された「怒りのデス・ロード」よりも、駄作と評される「進撃の巨人」の方が好調だったのは、テレビなどのプロモーションの成果と推測できるかもしれません。

お金を落としてくれる層に対してコンテンツを作っていく。スポンサーもつく。
たとえファミリー向けタイトルや、プロモーションで数字を持ってくるようなコンテンツが増えていても、結果的に制作の裾野が広がればいいのではないか、という声もあると思います。そういった意見には同意する気持ちもありますが、本当にそうなるだろうかという思いも半分あります。

こうした状況はいつまでも続くのか。あるいはこうした状況が続くことによって、映画業界を変質させてしまってはいないか。

この辺を掬って映画とテレビ局の関係にふれた記事もありましたが、私も近い見方を持っています。テレビ局の固定化されたノウハウで、売れるテンプレートに載せただけのコンテンツが量産されていて、踏み込んだテーマや表現方法の模索は、いまの映画業界では難しいのではないか。

eigageijutsu.com

2007年の記事です。制作委員会にテレビ局が参加して、テレビで大々的にプロモーションをする。その反面、保守的な映画作りになって、作家性は失われてしまう。また、儲けてはいても、現場に落ちてくるお金は減っている。そういったことを指摘しています。
 

「良質」な映画を支える人たち

日本の映画業界は独自の方法で市場を開拓しましたが、映画業界が儲かっているからといって状況が良いわけではないですね。日本映画界に苦言を呈した英映画配給会社の代表は、「レベルが低くなっている」と嘆いています。

国内では映画業界は現状で充分に収入をあげている。それなのにレベルが低いということはどういうことだろう。つまりそれは、国内でうける作品と、海外で通用する作品のあいだに、大きな開きがでているということだと思うのです。

インタビューで園子温中島哲也中村義洋をあげているように、よい映画をつくれる監督は確かにいる。けれど、作家自身のポリシーをもって作品をつくろうとする人にとって、好ましい環境かというとそうではないのでしょう。

低予算ヒットの下支え

昨年上映された「野火」を引き合いに、「予算がないからいい映画が作れないというのは理由にならない」という声もいくらかみられました。

塚本晋也監督の「野火」は自主製作映画です。エンドクレジットをじっくり見ると、塚本監督の名前がなんども出てくることに気づきます。監督、撮影、編集、役者と一人何役もこなしている。プロモーションもほとんど打ってないはずなので、ほぼ口コミで広まったといっていいと思います。監督は全国の小規模映画館をその足で回って、上映の機会をこつこつ重ねました。

製作中も予算がないので、一部海外ロケをのぞいて、埼玉で撮影されてるとか、日本兵の軍服も手製のものであるとか、製作秘話を読むと面白いのですが、同時に監督の鬼のような熱意と、多くのボランティアスタッフに支えられてできた作品だと気づかされます。

低予算でも面白い映画が撮れるのは、その通りだと思います。その例もたくさんある。ただ、野火のレベルの作品の裏には壮絶な努力があります。製作者サイドが自身の矜持として、「野火」のようなケースもあると言うには良いのですが、外野から言われるのは少々酷なように思います。

www.cinematoday.jp

海外評価の逆輸入

昨年、製作委員会方式で作られた映画の中でも評価が高かった、「海街diary」の是枝裕和監督のケースも少し見ていきましょう。

是枝監督のデビュー作は宮本輝の短編小説を原作とした「幻の光」(1995年)ですが、この作品は第52回ヴェネツィア国際映画祭で金オゼッラ賞(撮影賞)を受賞、2007年「誰も知らない」では主演の柳楽優弥が第57回カンヌ国際映画祭男優賞、2010年「そして父になる」で第66回カンヌ国際映画祭 審査員賞と、海外の映画賞と縁の深いイメージも強い監督です。

海街diary」の製作にはフジテレビが関わっていて、これまでの作品に比べると大々的な事前告知となりました。とは言っても、フジテレビとは関係づくりの時期もあったようで、2012年に是枝監督は、フジテレビのドラマ「ゴーイング マイ ホーム」を撮っています。このドラマを私も時おり見ていたのですが、丁寧な絵づくりと心理描写に、謎解きのエッセンスもあって、良いドラマでした。

しかし、じっくり見せるスタイルがお茶の間にそぐわなかったのでしょう。視聴率は良くなかったと記憶しています。当時は反韓感情とあいまって、フジテレビへの批判がすさまじい時期で、阿部寛を起用してバクチを打ったフジテレビの大ゴケドラマと評されていました。

www.news-postseven.com

海街diary」でキャストが発表されたとき、また芸能事務所ありきの映画かとがっかりしたのですが、実際には4姉妹役とも予想を裏切る好演でした。”綺麗な女優さんを見るだけの映画”という批判も見ましたが、そのイメージに振れることで、ドラマのときの轍を踏まなかったとも言えるかもしれません。

ところで海外の映画賞で高い評価をもらっているのは、なにも是枝監督だけではありません。河瀬直美監督の「萌の朱雀」は1997年に製作されました。この初の商業作品で河瀬監督は、第50回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を受賞。2007年には『殯の森』で第60回カンヌ国際映画祭でグランプリ(審査員特別賞)の快挙を遂げています。

カンヌ映画祭など国際映画祭に出品される作品の選考は、実際にはロビー活動や、主催側のプロデューサーが声をかける場合もあるようですが、基本的には応募作品が対象となります。これは個人的な推測にすぎないのですが、日本で文芸作品を撮る監督の多くが国際映画祭に出品するのには、海外での評価と逆輸入というルートを、ひとつの戦略としている面があるのではないでしょうか。

style.nikkei.com

裏を返せばそれは、国内に文芸作品を評価する土壌ができていないということなのかもしれません。
国際映画祭の冠がつけば、国内外で上映の機会もふえるでしょう。こういった積み重ねを10年以上続けて、ようやく「海街diary」や「あん」などの作品が作られたのでした。

いろいろ書きましたが、私自身はあまり良い映画ファンというわけではなく、邦画にかぎらず自分で映画館に行くようになったのは、ここ最近のことです。ここまで書いたことも素人目線で、実際に製作側にいる人や、長年邦画を見続けてきた人にとっては、不足している視点も多々あると思います。

けれど思うところあって書いたのには、この問題は製作者だけの問題だろうかという疑問があったからです。むしろ現在の状況でいちばん困難に立たされているのは、良質な映画を作りたいと望んでいる製作側の人たちではないかと思うのです。

観客に製作の舞台裏など関係はなく、事情に関わらず出来上がったものだけで評価されるべきという意見もあると思います。それは正論かもしれませんが、現状おきている問題の本質とは関わりのない正論です。事情はともかくベストを尽くせというのは、味噌汁を作って現場を盛り上げるのと同じく、問題を解決するものではないのです。

映画館に行くようになって、とくにミニシアターへ通う回数があがりました。ミニシアターというとオシャレサブカルのイメージがあって、自分とは縁がないと思っていたけれど、気になる作品をチェックするうちに、自然にミニシアターへ行く機会が増えていました。

映画によっては、ほとんど観客の入らないものもあります。採算度外視で熱意だけで作ったような社会派の作品や、実験的な作品はとくにその傾向がある。でもこういった情熱のある若手の作品を支えているのは、単館系の映画館なんだなと発見もありました。

邦画をこれまでも、これからも見ないという人が、邦画批判をするべきでないかというと、そんなことはないと思います。けれども邦画批判をする中で、少しでも「いい作品が増えてほしい」と思う人がいるならば、やはり大切なのは、その足で映画館に行くことではないかなと思います。

マッドマックス』(15)のようにコアなファンが何度も見に言った映画はまれであり、同時にツイッターだけ見ていれば圧倒的興行収入に感じても実際はそんなでもなかった(もちろん興行収入はよかったけど1位ではなかったという意味)。映画宣伝の担当者は「ほれ見ろ、サイレントマジョリティに負けたではないか」とか思っただろう。輸血袋にしてしまいたい。[…]ここで「そんなに言うなら解決策を提示しろよ」と言われると「必死に考えているんだけどねぇ」としか言えない。哀しき哉、僕は力不足だ。だからみんなも暇な時にでも考えてほしい。どうすればいいんだろうな。何が目指すべきところなんだろう。[…]映画は娯楽と芸術のキメラだ。芸術性が高くてもダメ、商業性のみでもダメ、難しい。だが映画は確実にその国の文化になり得る。

I spat out the Wintergore — 日本映画のこの先の話

いろいろ読んだ中でとくに印象にのこった記事です。

製作者は観客側に能動性を求めることができない。だから自分たちの努力の範疇で解決策を考える。
でも私はいち観客なので、「映画館に行こうよ」と言えるのです。

ちはやふる面白いらしいですよ。私もまだ見てないけど、近く見に行こうかなと思ってます。