日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

春の駒込さんぽ

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桜の季節なので、さて週末はどこへ行こうかなと考えていると、友人から週末上京するよ遊ぼうよ!と連絡があった。むむ。友人は1月に彼岸桜が咲く土地から訪れるのであり、それはもう、本州の桜を堪能したいに決まっている。

ところが桜の頃の都内の名所となると、人を見てるんだか、花を見てるんだか、よく分からないことになるのである。普段でさえ、東京らしいところに行きたいなとど言われて、テレビ局かなと思うくらいしか発想のないわたくしに、これは難易度高いオーダーですよ。

それで考えに考えて、谷中霊園はどうだろう、青山霊園あたりならランチやカフェには困らないな、どうも墓地ばっかりだなと自問自答した末、最近そろそろまた行きたいと思っていた東洋文庫ミュージアムを中心に、駒込あたりでプランを練ることにしたのでした。

池袋で待ち合わせて、山手線で駒込へ。しだれ桜で有名な六義園は南口をでて徒歩3分ほど。新宿御苑と同じで入園料がかかりますが、おかげで比較的空いてる…と思いきや、午前のうちから門まで列ができてる! しだれ桜を見れる短い季節だから仕方ないかな。5分ほど並んで園内に入りました。

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しだれ桜は散りかけでしたが、ソメイヨシノは見ごろ。桜の数なら新宿御苑のが多いかな。桜のほかツツジや乙女椿が咲いてて、木蓮や海棠も。そんな流れから、羽田行きの飛行機で、ぼくの地球を守ってを再読してたっていう話になったり。

桜の写真をぽちぽち撮ったところで早めに切り上げて、お目当ての東洋文庫ミュージアムへ。
ここは個人的に行きたかったのです。おつきあいスタンスだった友人も、解体新書展ポスターを見て俄然興味をもつなど。たぶん教科書に載ってた懐かしいものが好きなタイプなんだと思う。

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江戸後期に杉田玄白らによって翻訳された『ターヘル・アナトミア』ですが、解剖学はもっと古くに遡れるのでした。展示で古いものは中国。アラビアの解剖図は実用性重視したなという凄みがある。16世紀ヨーロッパの「エピトメー」になると、骸骨がポージングしたり、美術的な価値もありそう。

博物学つながりということなのかな。小さくスペースをとって、六義園の花見にもあやかった桜の写生図や、二階のモリソン書庫はシーボルトの書籍を展示。

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「エピトメー」/「NIPPON」シーボルト(1852年:アーネスト・サトウの旧蔵書

植物学を専攻し、東洋研究を生涯の仕事としたシーボルトは、オランダ商館付の医師として長崎の出島に滞在し、塾を開いて西洋医学を伝えるとともに、日本の文化を研究しました。

帰国の際に所持していた日本地図が禁制品だったため、とらえられたのち国外追放となってしまいますが、およそ30年後、日本が開国となると再来日。植物を収集し、自然風景をスケッチし、風俗文化についての記述を多く残したのでした。

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「櫻華八十圖」(明治時代初期)/「地錦抄」(伊藤伊兵衛 植物百科事典)/「櫻花聚品」(江戸時代末期)

桜の季節にちなんだ写生図の展示はとてもよかった。桜の品種ごとの写生は、標本コレクションを見るような楽しみもあります。

江戸時代、植物の百科事典を著した伊藤伊兵衛は、もとは伊勢国津藩主藤堂家に出入りして露から植物を守る仕事をしていたのが、植木草花を持ち帰り栽培を続け、いつしか植木屋になったらしい。代々に伊藤伊兵衛を名乗り、一説にはソメイヨシノを人工交配し育成したのも伊藤伊兵衛であったという話。

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二階にあがってまずは、モリソン書庫のソファでひと休み。しばし沈黙のあと、本を呼吸してる気がする…との発言を隣に聞く。分厚い本の背表紙に囲まれる空間。何はなくとも、ここは気に入ってくれるんじゃないかなと思ってたので、よい反応だったのは嬉しいことです。

展示はこのあと、江戸の医者事情などに移っていきます。江戸時代のタウンページとおぼしき専門医の住所録があったり、治療法が門外不出であったり、商売としても盛んであった江戸の医学でした。

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敷地内のレストランは予約で満席とのことでしたが、幸運にも早めに空いた席があって、午後の閉店まで小一時間を過ごすことができました。

窓際の席は予約ですぐうまってしまうらしい。その特等席で外を眺めながらのランチ。シーボルトゆかりの植物が植えられた中庭には、しだれ桜が立っていて、塀の向こうは小学校の桜。六義園で人にもまれた花見の後では、ああ、こんなところにも桜はあったと、感慨深くなってしまうのでした。

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レストランを出ると、中庭にはほかに人影もなくて、とても静かな空間。

ランチをとりながら、中庭のオブジェの意図するところを推測しあっていたので、答え合わせにオブジェに近づく。白い塊に数本の鉄の棒がささった作品です。白い塊は脳に見立ててるのかな? と、脳に刺激を!とか、ひらめき( ゚д゚)ピカー!とか言いながら近づくと、「任意の点」っていうタイトルでした。

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日本研究に尽くしたシーボルトにしても、人体を切り開いて生命の神秘に迫ろうとした、いにしえのマッド・サイエンティストたちにしても、ひとしく知への熱い情熱を感じる東洋文庫の展示です。

友人は展示パネルの見出しに「!」が多様されているところに、書き手の人柄を感じたようです。熱意が伝わるようでいいよね、と話しながら旧古河庭園への道を歩いていると、通りの向こうに「たたみ!」と書かれた畳屋さんが目に入って、もしかして地域性…?と困惑していたのが印象的でした。

というわけで最後の目的地は、ジョサイア・コンドル設計の西洋館がたち、日本庭園をかかえる都立公園、旧古河庭園です。

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石積みの洋館は、ちょっとしたカフェみたいになっていて、コーヒーや紅茶と、パウンドケーキなどがいただけます。春と秋のバラの季節は大にぎわいになりますが、この日はすっと入れて、かつてはディナールームだった奥の部屋へと案内される。床と壁と真紅の布張りで、重厚な雰囲気です。

室内は案内ツアーのとき以外は撮影不可。なんでもゲームの素材に使われたりしたことがあるらしく、みなさんお断りしてるんですとのこと。なんのゲームだろう。逆転裁判かな、バイオハザードかな、と、いまいち情報の古いふたりでした。

バラのイメージしかなかったので桜は期待してなかったですが、きれいに咲いてました。日本庭園をぐるりとまわって、さて今日はここまで。11時ごろ会って16時の解散。ちょっと駆け足の駒込めぐりでしたが、行きたいところは全部コンプリートできたので、よかったかな。

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文化系の友人はとても喜んでおりましたが、仕事やらイベントやらで何度も上京しているので、駒込も連れて行きやすかった気がします。いかにもな東京を見たい人だったら、やっぱり秋葉原とか連れて行っちゃうかも。東京案内むつかしい。

友人を見送ったあと、時間があまったので寄り道してコーヒーを一杯。カップがひとり一客ずつ異なるこだわりぐあいで、この日は桜の絵柄のものでした。のんびり過ごして、また来よう。東洋文庫旧古河庭園も、思えば「久しぶりに行きたい」っていう気持ちになる場所だなあと思ったのでした。