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日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

青春の一冊:ジョアン・リンガード「ふたりの世界」

book

特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
http://blog.hatena.ne.jp/-/campaign/pdmagazine

はてなブログの「今週のお題」は、記事編集のたびに目に入るので気にはしてるんですが、書くまでには至らずでですね。本は、じつはそんなに読まないのですけど、幼いころ読んだあれこれを思い出して、なにかひとつ書いてみようかと思ったのでした。

青春時代の一冊ということで、少年たちの繊細な友情にゆさぶられた「車輪の下」にするか、図書係の私に課せられた「全校生徒に紹介する『私の好きな一冊』」に「ワイルド・スワン」をあげて、図書の先生に「知らないわねえ」と言われた思い出にするか、などなど悩みましたが…。

車輪の下 (新潮文庫)

車輪の下 (新潮文庫)

多感な時期に読んだので、いろいろ、いろいろでした。

ワイルド・スワン(上) (講談社文庫)

ワイルド・スワン(上) (講談社文庫)

国民党と共産党の内戦、文化大革命——波乱の時代を生きた、祖母と母と”私”。こういう本をわざわざ”好きな一冊”に選ぶ、中二病の季節。

ここは、大人になってもしばしば思い出す、ジョアン・リンガード「ふたりの世界」にふれたい思います。

ふたりの世界 1 ベルファストの発端

ふたりの世界 1 ベルファストの発端

舞台は1970年代北アイルランド。通り一つ隔てて、カトリックプロテスタントが対立する街、ベルファストプロテスタントの祭りの前、セイディーとケヴィンは路上で取っ組み合いのけんかをする。負けん気の強い少女セイディーはプロテスタント、対するケヴィンはカトリックでした。

時がたつにつれ宗派の対立は激しさを増し、通りには有刺鉄線が張り巡らされる。幼いころ大げんかをした二人は再会し、しだいに心を寄せていくけれど、隣人の信仰を憎み合う社会で、ふたりの恋愛は危険をともなうものとなっていたのでした。

ふたりで生きて行くと決めたセイディーとケヴィンは、バンに荷物をつめこんで、故郷アイルランドをあとにします。ロンドンからリヴァプール、そしてウェールズへ。きっとどこかに自分たちの居場所があると信じて。

ふたりを取り巻く状況は過酷ですが、物語は明るくて力強い。情熱的な恋愛でもカラッとしてて、読んでいて元気づけられる小説です。

大地の上に境界線はないのですが、住んでる地区をきっかけとして人々の意識に境界ができ、やがて有刺鉄線といった壁となっていく。まだ通りひとつが境界線だったころ、セイディーと彼女の兄は、けんかの仕返しに向こう側へと忍び入る。おなじ街なのに、境界線を越えることはタブーになっている。

映画「ベルファスト71」でも、同じ時期の北アイルランド情勢を描いています。イギリス軍の青年が派兵されたベルファストで、あやまって敵地に入り込んでしまう。安全か、危険な場所か、敵か味方かも分からない。土地も人種もちがいはほとんどないのに、人々の心の中には透明な障壁が存在している。

ベルファスト71 [DVD]

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まだ見れてないんですけどね。

そういう特殊な背景も物語に引き込む点ではあるんですが、個人的には、物語に一貫してあるたくましさに惹かれたのだと思います。

カトリックプロテスタントの恋愛といえば、映画「ある愛の詩」も有名だと思うんですが、私の母が「妹(私の叔母)が若いころ夢中になってたけど、まったく分からん」と言っておりまして、母はラブロマンスに疎い人なものですから。それで、私も母のその言葉に興味を持って見てみたら、これがものすごい好きな感じでして。

ある愛の詩 [DVD]

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あのストーリーも、若いふたりが新しい生き方を模索していくっていう話だと思うんですよね。御曹司オリバーは親から継ぐはずだったものを捨てて、結婚式も二人だけ。その愛を、神ではなく法に誓うのです。貧乏でも拙くても、人生は自分たちの手で作っていく。時代性なのかな、あのころの。

どうやらそういう「いびつながらも家族を作っていく」話が好きなようで、最近みた映画「ディーパンの闘い」とか、同性愛者の詩人と彼に恋をした女性の半生を描いた「キャリントン」も好きな作品です。どれも知名度低いな。

キャリントン【字幕版】 [VHS]

キャリントン【字幕版】 [VHS]

その原点には「ふたりの世界」があるのかもしれない。当たり前の家族の姿から外れてしまっても、人はなんとなく生きて行くもの。けれどセイディーは、その人生に前向きで、力強い。このサラリーマン社畜ゾーン東京に生きる今日からは、眩い生き方ですが。

そんなわけで「ふたりの世界」は、学校の図書館が新しく購入するのを待って、全5巻読んだんじゃなかったかな。とても好きな話だったので、なかなか返却せずに手元に置いてたのですよ。そしたらある学期末、担任の先生がホームルームの時間に言ったわけです。

「図書館から借りた本を長期間返してない人がいます。今から名前を呼ばれる人は、早めに返却してください」「**くん、『エルマーの冒険』」みたいな感じで呼び上げられていく。ぼんやり聞いてた私は、名前を呼ばれて「『ふたりの世界』」ときて、教室が一瞬しんとなって、さざめく笑いが起きた。

おとなしい生徒でしたので、あっ、そういう本読むんだ、みたいな。

いや、確かにハーレクイン小説みたいなタイトルだけどさ!そんなんじゃないんだよ!!と叫びたかったのですが、なす術なく顔を真っ赤にしてうつむいた思い出であります。

メモ

シャロン・オウエンス「マルベリー通りの喫茶店」―北アイルランド小説の新たな展開―
シャロン・オウエンス『マルベリー通りの喫茶店』(2003)は、ベルファストのある喫茶店の常連客たちの様々な人生体験を描いた。[…]「北アイルランドは紛争が終わったら書くべき題材は無くなる」というメディアや批評家たちの見解を一蹴した。また彼らの新たな人生は、平和と発展に向けて歩み始めた北アイルランドのメタファーと見なすこともできる。そして登場人物の女性たちは、紛争小説に見られた受動的な女性たちとは違った能動的な女性たちである。

【PDF】http://repo.beppu-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php/tk03106.pdf?file_id=6546