日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

杉本博司 趣味と芸術─味占郷/今昔三部作 @ 千葉市美術館

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海景シリーズから始まって、音楽堂、森の中を撮ったものと、今昔三部作と題した本展示。少し暗い展示室で、ほのかな照明に浮かび上がる風景と向き合う。風景の向こうから響いてくるものがあるようで、こういったじゅうぶんな空間で味わってこそのものだなあと思ったのでした。

はじめは短めの露光で、海と空の境界もシャープだったものが、作品が進むごとに光の量をたくさん取り込んで、水平線も波の影も光の中に崩れてゆく。音の粒がつぶれて、歪んだ音で柔らかく響くような、ここちの良い空間。

もとは演奏のための音楽ホールは、その造形がそのまま、音を響かせるためにあるのだと気付かされます。写真の中の空間に満ちるのは、長時間露光でじっくり焼きつけた光。音楽を聴く代わりに、光の合奏を聞くような音楽堂シリーズも、とてもよかった。

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古今東西の品々からしつらえをつくる「趣味と芸術」の展示は、時代や空間をこえた組み合わせに豪胆さをも感じさせる。面白さの一方で、兜や焼夷弾を花入に見立てたり、どきっとさせられる展示もありました。

能の主人公はだいたい幽霊ですが、生者の前に現れて栄枯盛衰の物語を語るのがひとつのパターンとなっています。悲劇を味わいとして眺めるのは、古典の世界にもあること。ただ、芸術に昇華するとき抽象化されるものごとは、ときに心を置き去りにしてしまうのではないかと思ったりもしたのでした。