日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

川内倫子「Let's sing a song our bodies know」展 @ グッチ新宿

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twitter川内倫子さんの展覧会の情報をリツイートしたら、数週間前にもリツイートしているのに気がついて、拡散して行った気になってるんじゃないよって声が聞こえた気がしたので、その次の週末に行ってきました。

倫子さんの光量が多くて白っぽくなったような写真が好きで、わざと逆光に撮ったりするんですが、うまくいかない。どうやって撮るのかなといつも不思議です。ISO感度が低そう、というのだけなんとなくわかるけれど。

一人の少女をどことなく主体におくように仕掛けながら、雪や渦潮といった森羅万象、雨や花という身近な自然、東京の風景などを綴るインスタレーションです。なかでも花火の打ち上がる夜空を映し出す映像は、じっと見ていると、自然とほろりと涙を呼び起こされる。

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ぽつぽつ打ち上がる花火はやがて画面いっぱいに広がり、真っ白になったあと、漆黒の空に余韻の火花が消えていく。それはきっと幼い頃に見た光景。水面に降りしきる細かな雨も、夜空を明るく照らす月も。気がつけばそういう「どこかで見た」景色に囲まれていて。

私というものを認識する少し前に、私を取り囲んでいたひとつひとつ。まっさらな自我で見渡していた、カーテンの揺れるたびに踊る朝の光とか、寒い冬の日にガラスにできる結露とか。私を取り巻く世界の認知から、私という像が立ち上がっていく。これは、私というはじまりにあった風景。

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ひらかれた場で掲示される記憶の断片、その記憶は私のものでもあるし、誰かのものであるかもしれない。私は誰かの懐かしさを、私のもののように感じているだけかもしれない。自分を形作る懐かしさが、私とのひもづきをといて、誰のものでもなく、誰のものでもある記憶へと姿を変えていく。

懐かしさを分かちあうとき、私をつくるものの根本がゆらぐ。懐かしさの抽象化と共有は、私が私であることを無効化していく。私とあなたをしきるものは、認知という薄い膜にすぎない。その認知のおこりまで巻き戻して、未分化な世界へ。あなたがあなたである確かさと、消えてゆく私、その倒錯。

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自我の消えた人々の社会をユートピアとして描いたのがハーモニーという小説で、けれど作者である伊藤さんのインタビューを読むと、それは”本当に理想郷なのか?”という問いであることが分かります。そうではないはずと問いかけながら、まだその先の答えを見つけられていないとも。

その先の答えを、小説家としての伊藤さんは残さなかった。自由意思の存在を証明しようとして、それを否定する結果を引き出してしまったベンジャミン・リベットみたいに。
などと、壮大な思いつきにひたって、小さなスペースに長居してしまったのでした。楽しかった。

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川内倫子「Let's sing a song our bodies know」展
開催期間:2015年11月21日(土)~12月13日(日) ※会期中無休
時間:11:00~20:00
会場:グッチ新宿 3階イベントスペース
住所:東京都新宿区新宿3-26-11 新宿高野ビル
入場料:無料

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