日々帳

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幻想絶佳:アール・デコと古典主義 | 東京都庭園美術館

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建物見たさと、あまり馴染みのないアール・デコ絵画を見に、東京都庭園美術館へ行ってきました。

本館の旧朝香宮邸と、ホワイトキューブな展示室の新館からなる東京都庭園美術館。2014年秋にリニューアル開館して、ずっと気になっていたのですが、ようやく足をのばせました。

新館では、アール・デコの画家たちの作品を展示。こちらが意外に面白く、とくにチラシにもなっているウジェーヌ・ロベール・プゲオン(1886-1955)の作品が印象的だったので、今回はプゲオンの作品を中心に簡単にまとめようと思います。

アール・デコ絵画について

アートに限らず、世界はつねに揺れ戻しでバランスを保とうとします。19世紀に教訓や意味性を否定して始まった近代の絵画は、20世紀初頭にふたたび物語を取り戻そうとしました。ギリシア神話をはじめとする古典の世界を拠りどころとしたアール・デコは、その動きのひとつとも言えそうです。

アール・デコはたんに過去の模倣ではなく、過去を今の技術で作り直す、いわば過去の物語を現在の価値感とすり合わせることでもあり、その行為の中から彼らは、自身の文化の文脈を、現在と未来にわたって紡ごうとしました。

彼らは美術の中に過去からの連続性を持たせることで、自らの文化のアイデンティティを浮き上がらせ、再確認しようとしたのではないでしょうか。アール・デコもまた芸術における近代化の流れにあるように思えます。

ウジェーヌ・ロベール・プゲオン イブの誘い

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ウジェーヌ・ロベール・プゲオン「イタリアの幻想」(1928年頃)アントワーヌ・レキュイエール美術館

プゲオンの作品の一枚目は、三匹の鹿に見つめられ恥じらいを見せる女性と、彼女と背中あわせに立つ裸の女性。泉に足をつけていることから、裸の女性は、着衣の女性の内面を表しているといいます。

鹿は男性、あるいは大衆の視線でしょうか。淡白な他者の視線に恥じらう女性は、おのれの妄想に身を焦がしているのかもしれません。一枚目がこれだったので、この人の絵のキーワードはエロスにちがいない、絵の中に彼の描くエロスを探してみようと思ったのでした。

次いで、馬に乗った二人の人物。背後から描かれており、性別ははっきりと分かりません。ただ、今回展示された数枚から、プゲオンにとって馬や獣は男性の象徴なのではないかと推測されます。
またがる動物が同じことから二人は同性であり、また筋肉の具合からも男性だろうと考えられます。

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ウジェーヌ・ロベール・プゲオン「アマゾン(幻想…)」(1934年頃)アントワーヌ・レキュイエール美術館

アマゾンのタイトルで何枚か作品を描いているというプゲオン。他の作品も見てみないと、この絵の意図するところまではつかめそうにありません。二頭の馬と二人の青年、その臀部が魅力的に描かれていますので、そのあたりが好きな人(ツイッターとかでたまに見る)にすすめたい作品です。

またポスターにもなっている作品は、アダムとイブを下敷きにしているそうです。これがはっきりとした解釈がないらしく、強い寓意性を感じるだけに、その真意が気になる作品でした。

多少の解釈のヒントは展示会場の説明書きにありましたが、このほかプゲオンの油絵作品は2枚(全6作品)あるので、気になる方はぜひ、本展示で謎解きにチャレンジしてみてください。

女性のエロスの表現が強い画家には、同時に女性嫌悪の感情もひそんでいるように感じます。
たとえばナビ派のヴァロットン。セザンヌの作品にも多少感じるものがあります。そしてその傾向はプゲオンの中にもあるように思います。

卑俗に描かれることで、絵の中の女性はより赤裸々に男性を誘います。性の欲望が男性の中にあるのではなく、女性の中にあるのだという意識。男性の欲望は、女性の誘惑により「アダムの林檎」を受けとったことで生まれるのです。

それらは歴史において長い間、政治を担ってきたのが男性だったからこその解釈なのでしょうが、しかしその一方で、女性を忌諱しながらも強く惹かれる、矛盾した心理が絵の中に隠れています。

プゲオンの絵にはまた、ホモソーシャルな理想像も現れているように思えます。大海原を望み肩を寄せる青年たちの、精神の絆と肉体美。アマゾンはギリシア神話では女性だけの部族(アマゾネス)のことなので、プゲオンはこの作品で男どうしの絆と、観念的な女性とを対比させているのかもしれません。

ここでは女性嫌悪ホモソーシャルを否定するのではなく、そのイメージが私たちの中に深く根ざしていることへ意識を向けたいと思います。女性という像が眩いほどに陰影も濃いものです。プゲオンの中で、女性嫌悪ホモソーシャルが結びついている(かもしれない)ところも興味深く感じます。

プゲオンはパリ14区役所別館の壁画も担当しています。今回その下絵も展示。日本ではあまり知られてない画家ですが、当時のフランスでは、公共施設の壁画を任されるほどに認められていたようです。

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ウジェーヌ・ロベール・プゲオン「パリ14区役所別館祝宴の間 壁画下絵(一部)」(1933年頃)オワーズ県立美術館

この下絵があまりに上手くて、じっくり見入ってしまいました。
漫画家の荒木飛呂彦さんが、作画に海外のファッションやアートを参考にしていることは知られていると思いますが、プゲオンの下絵はジョジョっぽいと思ってしまった。

もしかして荒木さんはプゲオン好きだったりするのかな。ルネサンス的な肉体美や強い物語性、それにちょっと奇妙な感じとか。と思って家に帰って調べてみたのですが、そもそもプゲオンの情報がほとんど出てこない。フランス語wikipediaも記事量少なかった…。

画集あったら買おうかと思ってたのに。結局、翌週また美術館へ行って図録を買ったところ、一番気に入っていた構図のところが見開きのとじ合わせでほとんど見えないのでした。

ルネ・ラリック 甘美な神話

最後に本館の旧朝香宮邸の感想をちょっとだけ。

本館はけっこうな人の入りでした。アール・デコ建築だいぶ人気みたいです。なお邸宅内の撮影は平日なら可能のようです。そんなわけで、令嬢気分で優雅に邸宅をまわることはできませんでしたが、おばさまおじさまに混ざって、豪華な装飾がほどこされた邸宅をぐるりと見学してきました。

部屋ごとにさりげなく展示されたアール・デコの調度品の数々。とくにルネ・ラリックの作品は優美そのもの。アール・デコ絵画の物語性がどこか辛口なのと反対に、甘く優しい雰囲気があります。

男性を浮き彫に、女性を沈み彫にしたガラスの置き時計は、昼と夜のように、二人の伸ばした手が触れることはありません。ラリックのこのセンス、なんとも切なくロマンチックです。

アール・デコ絵画でふむふむ考えたあとに、ルネ・ラリックの作品で癒されて帰るのがベストコースかもしれません。

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ルネ・ラリック「置時計《昼と夜》」(1926年)/「モリナール社 香水瓶《牧神の接吻》」(1928年)箱根ラリック美術館

関連

*ポスターの作品「蛇」についても少しふれています。

*プゲオン以外の作品や旧朝香宮邸のレポート。写真も多め。