日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

[雑文]ジェームズ・クックとジョセフ・バンクス

新年早々、美術展へ行きまして、とても面白かったです。
植物画やオセアニア文化の資料もよかったけど、図録など読んでると、エンデヴァー号のメンバーもなかなか個性派揃いだったので、ざっくりまとめです。

ちな美術展の感想は別エントリにて書きました。

ジェームズ・クックとジョセフ・バンクス

f:id:mventura:20150125162709j:plain

展示会オブジェ:なおエンデヴァー号のミニチュアは展示会ショップに販売されていました。

1768年英国を出発したエンデヴァー号の航海は、金星の太陽面通過の観測*1のためとされていたが、本当の目的は別にあった。南半球に存在すると考えられていた南方大陸の発見である。

この計画が発表された時、植物学者バンクスは、何が何でも航海に参加したいと考えた。
彼は若くして相続した潤沢な資産から一万ポンドを寄付し、もともと士官たちが使うはずだった部屋を開けてもらって、仲間たちとともに探索航海のメンバーになったのだった。

* * *

この時代の航海は命をかけた危険なものだった。エンデヴァー号は、その中でも大きな功績を残した。クックはタヒチ島で天体観測を成功させ、世界地図を書きかえた。そればかりではなく、当時、長期間の航海で恐れられていた壊血病による死者を、一人もださなかったのだ。

壊血病の原因は海上の生活でビタミンCが不足することによる。しかし当時は原因が分からず、そのために多くの船員がその犠牲となった。船には壊血病に効くと信じられていた食料が積まれた。その中でもザワークラウト(キャベツの漬物)は効果があり、これが功を奏した。

グレートバリアリーフでの座礁など、いくつかの困難に直面しても、クックはそれを都度乗り越えた。そこには彼の統率力や判断のバランスの良さがあっただろう。バンクスとは異なる形で彼もまた、新しい世界への好奇心と開拓心を抱いており、その野心を成功に導く類稀な才能を持ち合わせていた。

* * *

農場労働者の家庭に生まれたクックは、海に魅せられて海軍に志願した。セントローレンス川河口、ニューファンドランド島の海域測量で、その腕の信頼を得て、王立協会による南太平洋探検の司令官に推薦される。そんなどこか硬派なクックと比べて、バンクスは裕福な趣味人という雰囲気がある。

異なった文明の地へ踏み込むとき、ほとんどの場合、現地の人々との衝突が起こる。その点、この第一回探検航海は、比較的穏やかに現地の人々との交流を成し遂げた。クックは現地の人々の生活をむやみに脅かすことを戒めたという。それに加えて、バンクスの存在も大きかったかもしれない。

この若き植物学者は先住民の人々に好奇心をもって接し、同じものを食べ、その文化を理解しようとした。クックは現地の人々との交渉をすっかりバンクスに任せていた。航海の間、現地の人々との衝突がなかったわけではないが、大きな問題が起きなかったのは、二人の気質が幸いしたのかもしれない。

* * *

そのバンクスは帰国後、二回目の探索航海の話を受けるが、彼はまるで自分に指揮権があるかのように振る舞ったため、いろいろと問題が起きて機嫌を損ね、結局航海のメンバーから降りてしまった。こうして南太平洋の第一回探検航海は、クックとバンクスがともに旅した最初で最後の探検となった。

バンクスはその後、王立協会の会長に選出され、生涯にわたってその職に就いた。彼自身も植物学者であったが、エンデヴァー号の科学班のリーダーであったときのように、どちらかというとプレイヤーではなく、プロジェクトのマネージャーのような立ち回りであったらしい。

第二回探索航海でも業績をあげたクックは海軍を一時休職するも、やはり海から離れられず、三度目の探索航海へ出航する。しかし年齢ゆえの気難しさからか船員との不和が起き、ついにはハワイ島で先住民との揉め事から命を落としてしまうのだった。

* * *

クックとバンクスは正反対のように見えて、一方は海に、一方は植物にのめりこんだ人生でした。
そこには未知の領域に挑んでいく情熱と、時代の空気を感じさせます。

異なる文化の人々に対して、バンクスは裕福なゆとりゆえ異文化へ向ける敬意があって、一方のクックには押しては引きと、コミュニケーションの綱引きをするような冷静さがある。今でいうとインテリ・リベラルなバンクスと、リアリストのクック、みたいな感じ。

正反対のふたりがともに旅した第一回探索航海は、奇跡のような航海だったのではないでしょうか。
などと、勝手に話を大きくして図録を楽しみました。


関連リンク

ジョセフ・バンクス卿の生涯 – 18世紀の偉大な植物研究家・探検家 -1991年12月11日に国際基督教大学図書館で行われた 勝見允行名誉教授 による公開講演の内容をまとめたもので、『国際基督教大学図書館公開講演集 第7集』(1993年3月)に収録されているものです。...

http://www-lib.icu.ac.jp/collections/banksflorilegium/banks_life/
バンクスについてのもう少し詳しく知ることができる記事。
今回の記事は図録とこの記事をもとに、wikipediaで情報を補足しながら書いています。


特集:リンネ 植物にかけた情熱の人 2007年6月号 ナショナルジオグラフィック NATIONAL GEOGRAPHIC.JP
分類学の父」カール・リンネ。バンクスと南太平洋航海に同行した植物学者ソランダーの師。書籍から切り取った花の絵で埋め尽くされているというリンネの部屋が気になりました。


BBC地球伝説 発見!世界大航海 歴史を変えた男たち 2 キャプテン・クックと新たな世界地図
前に見たけどおもしろかった。再放送もなさそうなので、そろそろBBC地球伝説セレクションDVDみたいなの出してほしいな。権利とか難しいか。


BBC地球伝説 発見!世界大航海 歴史を変えた男たち 1 マゼランの世界一周
これもおもしろかった!ちょいちょいマゼラン嫌な人だった。この黒髪の人はエルカーノという最後ビクトリア号を指揮した人。

*1:太陽と地球の距離を測る