日々帳

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キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展 | Bunkamura

今年の初美術展は、渋谷Bunkamuraの『バンクス花譜集』展。
ポスター見たときから、これは行こうと心に決めていた展示会です。

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展示会ポスターと図録付録の栞(もったいなくて使えない)

クック船長の率いた英国軍艦エンデヴァー号*1に乗り込み、タヒチ島ニュージーランド、オーストラリアの植物を採集・記録した植物学者ジョゼフ・バンクス。帰国後、同行の画家が描いた植物の数々を出版しようと準備を進めましたが、彼の存命中には叶いませんでした。

その航海から200年後の1980年代に、大英博物館に保管されていたバンクスの銅板をもとに、100部限定で『バンクス花譜集』が出版されます。今回は、『バンクス花譜集』全743点の作品のうち、120点を厳選して展示するほか、航海道具、太平洋地域の民族資料なども展示。

これはもう、植物が好きな人や、歴史、民俗学が好きな人にはたまらない展示だと思います。
図録も売ってた! エンデヴァー号の断面イラストなどあって重宝しそうです。

植物学者が見たオーストラリア

タスマン海を渡っていたエンデヴァー号が、海原の向こうに海岸線を見つけた時、その小型帆船の人々は、オーストラリア大陸を目にした最初の西洋人となった。

北上するエンデヴァー号で、クックは大陸東側の海岸線を描いたが、その間、船に乗っていた植物学者たちは、この大陸に生息する植物の虜になり、草木の採集と記録に勤しんだ。彼らのあまりの喜びように、クックは東海岸の地名に「ボタニーベイ」(植物学の湾)と名付けたほどだという。

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左:バンクシア・セルラータ(名前が詩魔法みたいでかっこいい)/右:クレロデンドルム・バニクラートム

バンクシア・セルラータは、バンクスの名前にちなんで名付けられた。山火事の時に熱せられて、袋果が開き、種をばらまく。

植物の形態はときにグロテスクでエロティックである。それは人の世界の隠喩としてそうなのではなく、単にその造形が、生命の力ありのまま形取っているからだろうと思う。バンクスや同行した植物学者ソランダー*2の興奮も、分からないでもない。

こうした植物は先住民たちの生活に深く結びついている。テンペシア・ポプルネアは、ハイビスカスの一種で、タヒチの聖なる木と記されている。材木から染料、薬用と用途も幅広い。麻薬性の伝統的飲料カヴァの原料となる木の根*3など、民俗学の見地からも、とても面白い。

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左:テンペシア・ポプルネア(ハイビスカス種)/右:デプランケア・テトラヒュルラ

航海は現地の人々の文化との出会いでもあった。ポリネシア人の神官トゥパイアは旅に同行し、タヒチより先の島々のナビゲーターとなった。

バンクスはポリネシアの文化に強い感銘を受け「彼らは我々よりも遥かに幸福なのかもしれない」という趣旨の言葉を残している。同行した植物画家パーキンソンは、先住民たちのスケッチを描いた。植物素材のマントを羽織って笛を吹く少年、正装したニュージーランドの戦士ーー。

オーストラリアの国獣カンガルーとの出会いにも、驚きがあったようで、次のように書き記している。「グレーハウンド(犬)と同じ大きさをし、どの点をとってもそのかたちが似ていた…しかし歩き方ないし走り方はちがっていて、ウサギやシカのように跳ねる」

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『バンクス花譜集』展 図録 エンデヴァー号の内部イラストや復元船の内部写真など。

バタビアを経由して帰国の途につくと、船は疫病に見舞われ、苦しい航海となった。若き画家パーキンソンやタヒチの神官トゥパイア、天文学者のグリーン*4がその犠牲となった。バンクスも一時重体になりながらなんとか回復し、祖国に戻ってからは、一躍時の人となった。

帰国して描かれた肖像画には、航海で手に入れた民族資料に囲まれ、植物素材のマントを羽織ってご満悦のバンクス青年が描かれている。200年前大英帝国に活躍した植物学者バンクスの、なかなかのナードっぷりを最後まで楽しませてくれる展示会であった。*5

* * *

と、総じて言えば、18世紀の西洋人が南太平洋の植物・文化にふれた感動が、随所から伝わって来るようでした。

クック船長の番組をもともと見てたこともあって、エンデヴァー号にまつわる記述もあった今回の図録は面白かった。その辺まとめた文章が長くなりそうだったので、別エントリにでも。

年初めから大変に楽しめた展示でした。

クック船長も魅力的な人物だったので、クック船長と学者バンクスにまつわるエピソードまとめです。

*1:wikipediaなどではエンデバー号ですが図録に合わせてエンデヴァー号表記

*2:ダニエル・ソランダー:「分類学の父」カール・リンネの弟子。航海当時35歳。ちなみに科学班のリーダーだったバンクスは25歳。海の男クックは40歳。二人は植物学の知識と世界を探検する希望でかたい絆を結び、バンクスのロビー活動の末、南太平洋への航海を実現したのちは、ともにアイスランドへ植物の採集へ出かけた。好奇心旺盛なバンクス青年と、穏やかな年長者ソランダーという印象。

*3:カヴァの原料:ピペル・メテュスティクム アルコール分は含まれない。覚醒状態で深いリラックスを得られる。

*4:天文学者チャールズ・グリーン:王室天文官(グリニッジ天文台長)ネヴィル・マスケリンの助手。クックの第一回航海でタヒチ島において金星の太陽面通過を観測した。

*5:ナード、オタク、変人、学者肌?適切な言葉が思い浮かばない。人より物への関心が異様に強い感じ。