日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

[感想]東山魁夷と日本の四季 | 山種美術館

前回エントリが長文だったので、二回に分けることにしましたよ。
前の記事は、山種美術館のイベント、ブロガー内覧会に参加したレポートです。

今回は、おもに作品によせた個人的感想です。

感想 響き合う色、造形のリズム

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東山魁夷『年暮る』昭和43年 山種美術館

本阿弥光悦俵屋宗達の作品には、音楽性があるように感じます。
それは彼らが、和歌の世界から造形をおこしているからではないかと想像しています。音と造形がまだ未分化で、一つの作品に溶けあっているような芸術。

東山魁夷の作品も、音楽を聴くような絵がいくつかあって、特に「春静」は、それを強く感じるので、魁夷が光悦に寄せて描いたと知って、ちょっとした驚きがありました。

音楽の聞こえる絵画ということで、以前クレーにふれたことがあるのですが、クレー自身も音楽を絵画化しようとしていたと最近知って、そこまで意識的だったんだなあとびっくりしました。
音楽に理論があるように、絵画も理論化しようと試みれば、しぜんと音楽と共通するものになるのかもしれません。

東山魁夷が絵画と音楽の関連性をクレーほどに考えていたかは分からないですが、ある程度は意識的ではなかったか、と個人的には思っています。というのも、今回の展示会には絵一枚ごとに魁夷の言葉がつけられているのですが、「春を呼ぶ丘」の文章、

その年に描く何点かの作品の構想を漠然と考えていた時、ふと、モーツァルトのピアノ協奏曲イ長調(K488)の第二楽章の旋律が浮かんできた。ピアノの主題の独奏とオーケストラの応答ーー
白い馬は、たとえば協奏曲なら、独奏楽器による主題であり、その変奏である。協奏する相手のオーケストラはここでは風景である。白い馬は風景の中を、自由に歩き、佇み、緩やかに走る。
― 以下略 ―
|山河遥か―東山魁夷画文集

というくだりを読むと、やはりそこには音楽への感性があったのではないかと感じられるのです。

今回の展示ではありませんが、「青響」について書かれた文章にも同じことを感じます。

深い谷を距て向うの斜面の青葉の木々の重なりを眺めているとその一つ一つのフォルムのリズミカルな積み重なりが響きとなってくるように感じた。これは青い響きである。青葉の重なりの奏でる無言の響きである。

|風景との対話 (新潮選書)

絵画であれば何らかの音楽を感じるかというと、そうではなく、たとえば東山魁夷の作品でも、音への意識が強い作品とそうでないものがあるように感じます。この文章で述べているように、「フォルムのリズミカルな積み重なり」など、造形がリズムを作り、絵画に音楽性を与えているのだと思います。

「春を呼ぶ丘」もよく見れば、魁夷が「オーケストラ」と称した風景は、春の木々と耕された畝の単調な反復をもととして構成され、白馬(ピアノの旋律)はその響きの中を軽やかに横切っていくのです。

白馬は画面右端にいて、対へ向かって一本の畔が伸びています。今まさに音楽が流れ始めている。
畝の形づくる集中線は左側、旋律の終盤あたりにすくっと立つ白い木に向かっています。もしかすると、その一点が協奏曲のピークなのかもしれません。その運動の意識もまた、この一枚の絵を音楽的に見せている要素なのだと思います。

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一色を丁寧な濃淡で表現するのも、音の感性ゆえんだと思います。東山魁夷は「青響」や「緑響く」など、「色」が「響く」という表現を使っていますが、どうすれば「色」を響かせることができるかを追求した画家でもあったのではないでしょうか。

色の響きと造形のリズム、そして動きの意識という幾つかの工夫が、東山魁夷の絵画に音楽性を息づかせているように思います。

今回のとくに「北山初雪」「萬緑新」「春を呼ぶ丘」は、その傾向の作品なので、これから行く予定の人や、行こうかなと思っている人には、ぜひ絵の前で魁夷の音楽を聴いてほしいなと思います。

展示会で人気が高いなあと感じたのは「年暮る」でした。季節柄もぴったりですね。

なんとなく「萬緑新」などの作品は、日本の文脈を知らない、たとえば海外の人とかに評価を受けそうな気がしました。抽象画にも似た、純粋に感覚へと響いてくる作品です。

逆に「年暮る」は、日本の文脈をよく知っているからこそ惹かれる一枚だと思います。この季節の忙しい年の瀬、それが大晦日の夜ともなると、皆が温かい家の中に閉じこもり、家族団らんで年明けを待つ。そのしんとした静寂にある温かみが伝わってきて、懐かしいような切ない気持ちになります。



書籍、論文など

東山魁夷は文章も美しい人だなあと今回しみじみ思いました。

「クレーの日記」は読んでみたいですが、美術書は高いですなあ。
「造形思考」は中古本でやたら高かったので省きました。図書館とかで読むのがベストかも。

クレーの絵画と音楽については論文なども多く書かれているようで、以下はその一端です。