日々帳

140字で足りないつぶやき忘備録。

[感想]東山魁夷と日本の四季 | 山種美術館 内覧会レポート

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山種美術館東山魁夷展のブロガー内覧会があると聞いて、是非と思い参加してきました。

恵比寿駅のざわめきを後にして少しばかり歩いたところにある山種美術館
内覧会は夕方ごろに行われるので、初冬のこの時間すっかり日は暮れ、夜の美術館にわくわくします。

好きな作品をつまみながら展示会のレポートをば。

自然を心に写す — 師たちの四季

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※作品および館内は、内覧会につき許可を得て撮影しています。

展示会の第一章は、東山魁夷が影響を受けた画家たちの作品を展示。

東京美術学校で師事した結城素明の「心を鏡にして自然をみておいで」という言葉は、常に魁夷の心の中に生き続けたと言います。

東山魁夷がとくに尊敬していたという川合玉堂の作品。

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川合玉堂『渓雨紅樹』昭和21年 山種美術館

しっとりと森を濡らす雨のなか、渓流と水車の水の音が響き、紅葉の色づきが映える風景を描く。玉堂の「雨と水車」のテーマは水墨画「水声雨声」*1でも描いていて、そちらの方がより雨と水の音が聞こえてくるけれど、今回展示の「渓雨紅樹」は、濡れそぼる紅葉が美しい一枚。

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川合玉堂『雪志末久湖畔』昭和17年 山種美術館

「雪志末久湖畔」、冬の湖畔に吹雪の噴きかかる様子を描いています。玉堂の他の三枚と比べても色味をおとしていて、冬の厳しさが伝わってくる。川合玉堂という画家は、水の気配を描くのが上手い人だなあと改めて思いました。

画家を志したばかりの魁夷の心に写ったのは、自然と真摯に向き合う師たちの姿だったようです。

また、妻の父、川﨑小虎の作品も紹介。草花を描いた素朴ながら繊細な作品です。
たらし込みの技法を使って草木を主題に描いて、秋の色合いも艶やかに簡潔に描くのが品があり、どこか酒井抱一の作品を思わせます。撮影不可なのが残念でしたが、図録に載っていたのでまあいいか。

皇居宮殿ゆかりの品

奥の大きく開けたエリアには、皇居新宮殿を装飾する絵画と同趣の作品を展示。
宮殿内を飾る作品を目にする機会のあった山種美術館初代館長が、優れた作品を一般の人にもひろく親しめるようにと、それぞれの作家に制作を依頼したのだとか。

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贅沢な空間。

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東山魁夷『満ち来る潮』昭和45年 山種美術館

東山魁夷の作品「満ち来る潮」は、岩に砕ける勢いのある波を描いています。一方、写真でしか見れませんが、皇居新宮殿の障壁画「朝明けの潮」には、満ちる波の静かな力強さがあります。
二つの作品のためのスケッチ・下図も展示されて、さまざまな波の表情をとらえて、どう描くか模索した様子が伝わってきます。

東山魁夷の四季

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親交の深かった川端康成に「京都は今描いていただかないとなくなります」と言われたのをきっかけに絵筆をとったという「京洛四季」の連作を中心に、東山魁夷の描く四季の彩る第三章、第四章。

山種美術館収蔵の「京洛四季」のほかに、川端康成コレクションの「北山初雪」や宮内庁所蔵の「萬緑新」など、なかなかお目見えしない作品もあって、来てよかったとしみじみ。

京洛四季

「京洛四季」の中では、春の山を描いた「春静」がいちばん好きです。

作品に描かれる鷹峯は、洛北よりもっと北の今は静かな住宅地で、かつて書家で陶芸家の本阿弥光悦がひらいた光悦村のあった場所。この作品は光悦の料紙装飾に似せて描いたのだとか。
色の柔らかな境目は、裂いた和紙のニュアンスを思わせます。

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東山魁夷『春静』昭和43年 山種美術館

画面を直線的に区切った構図は、空と山を象徴性に落とし込んでいます。
ひょっとすると魁夷は、光悦の茶碗から風景をおこすような心づもりでこの絵を描いたのかも。などと思ったり。

秋の小倉山を描いた「秋彩」、山の青い影に映える、赤と黄色の紅葉。

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東山魁夷『秋彩』昭和61年 山種美術館

近づくと、背景が透けるような塗りと盛るような塗り込みとで、彩りに表情をつけているのがわかります。「春静」背景の山の深い緑は、緑青を火で炙って作った「焼緑青」という色を使うのだそうです。
同じ緑青に少しずつ焼緑青を混ぜることで、深い翳りを表現しています。

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北山初雪

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左:東山魁夷『北山初雪』昭和43年 川端康成記念会/右:東山魁夷『年暮る』昭和43年 山種美術館

「北山初雪」は、川端康成ノーベル賞をとったお祝いに、東山魁夷より贈られた作品。
杉山をうっすら白く染める初雪。冬の朝の冷めた光に、緑がかった翳りが山を色づける。

限られた色数で丹念に濃淡を重ねて、冬の情景を表現しています。

幾重にも重なる繊細なグラデーションは、色を響かせるようです。杉の単調な繰り返しが生む造形のリズム。この絵の前に立つと、冬の情緒を音楽として聴いているような気持ちになります。

春を呼ぶ丘

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左:東山魁夷『春来る丘』昭和41年 山種美術館/右:東山魁夷『春を呼ぶ丘』昭和47年 長谷川町子美術館

春の風景を走る白馬の影を描いた作品。

絵の中に人物を描くことのほとんどない魁夷ですが、白馬を主題に描いた作品がいくつかあります。この白馬について魁夷は、心の祈りだと書き記しています。
一つのことを一心に祈ること、その清廉さと希望を思う心が、一頭の馬の姿に重なるようです。

これは春の風景ですが、クリスマスやら近いこの季節の心情に合うような気がしました。

* * *

今回の展示では、「春静」「北山初雪」「萬緑新」の絵が特に良かったです。
「萬緑新」は宮内庁所蔵品で撮影はできずで、幸いに図録に載っていたので、帰ってからも眺めてみましたが、これは本物の前に立たないと伝わらない感じのやつだ、と思ったのでした。

魁夷の滝を描いた「青響」という絵に似ていて、色彩の響きを感じる作品です。景色は「青響」と同じ福島の、翁島。2014/12/21(日)までの展示予定とのことです。

四季彩々 — 同時代の画家たちの四季

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左:山田申吾『宙』昭和48年 山種美術館/右:加藤栄三『流離の灯』昭和46年 山種美術館

展示会の締めくくりは、東山魁夷と同じ時代を生きた画家たちの作品を展示。
戦前、戦後の日本画壇で、画家たちが日本人として何が描けるかを模索し続けた時代。

画面いっぱいに青を塗り込めた「流離の灯」は油彩画のような重量感があります。
青一色の中に点々とともる灯が美しく沁みる、夏の情緒。
山田申吾「宙」は、絵の前に立つと、見上げた空に吸い込まれそうな気持ちにおそわれます。

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左:山本丘人『涛と雪』昭和30年 山種美術館/右:山本丘人『山の湖』昭和時代 山種美術館

近代洋画の表現を取り入れながら日本画の新しい道を切り拓いた山本丘人、山口蓬春や、東山魁夷とともに日本画壇を牽引してきた髙山辰雄、杉山寧など、昭和画壇の画家たちが描く四季折々。
山口蓬春の「錦秋」、髙山辰雄の「春を聴く」が好みでした。

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1Fカフェでは、展示会に合わせた和菓子を販売。

「北山初雪」をイメージした「雪の朝」が、色もきれいでいいなあと思ったのですが、品切れで...。「満ち来る潮」コンセプトの「あげ潮」をいただきました。
美味しかった!しっとり餡ともちっとした練切り。たぶん今回のラインナップの中で一番美味しい。
他の食べてないけど。

展示会レポートは以上です。ただただ長い極私的感想は、次回エントリにて記載しました。