日々帳

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[感想]冷たい炎の画家 ヴァロットン展 - 三菱一号館美術館

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美の巨人たち」で見て気になってたけど、展示会行くつもりまではぜんぜんなかったのに、週末思い立って。さらっと見るつもりが、予想以上に面白かった。

三菱一号館美術館も初めてだったのだけど、雰囲気あってとても良かった。
展示会の入れ替わりのたびに通ってしまいそう。
感想を簡単に。


展示室はいってすぐの作品「休息」は、シーツに横たわる裸婦の絵。
よく見ると体のラインがおかしいような。胸骨の流れからいって、へそはもっと内側のはずだし、もし腰をひねっているのなら臀部はもりあがらない。

ヴァロットンはドミニク・アングルを心の師とあおいでいたようなので、もしかしたらこれはグランド・オダリスクのオマージュ?なんて考えたりした。
デッサンのゆがみは、作品上の見栄えのための故意的なものなのかも。

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ヴァロットンは浮世絵に影響を受けて、平面性や俯瞰性をその作品にとりいれた。
光景を見つめるまなざしがどこか冷たいのは、俯瞰性によるのかなと思った。

リラックスした、あるいは赤裸々で親密な空間を、一歩ひいた冷めたまなざしで描くことで、まるで私生活を「のぞき見」しているような気持ちになる。


「暗殺」とタイトルされた作品は、ヒッチコックの「サイコ」のワンシーンを思い出させる一枚。

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ヴァロットンの作品は、サスペンス映画のような雰囲気のあるものが多い。
展示会のポスターにも採用された「ボール」や川岸に男が立つ「ロワール川岸の砂原」もそうで、平穏な日常を描いているのに、これから何かおきそうな、不穏な空気を感じる。

ホラー映画とかサスペンス映画をつくる人は、見てる人を不安にさせる撮り方を心得ていると思うのだけど、ヴァロットンの作品は19世紀末の絵画作品なのに、その要素がちりばめられている。

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ボールを追う少女と、それに気づかない立ち話の大人たち。辺りを大きな木の影が覆う。
この作品では少女と遠景の大人たちという、異なる視点から見たふたつの対象を、ひとつの画面に描いている。


折々に感じさせるミソジニーもヴァロットンの特色。
夫婦仲がうまくいっていなかったことが影響しているのだそうだけど、ヴァロットンは女性の本質は「男を誘惑し破滅させるもの」と考えていたよう。

けれども彼はたくさんの美しい裸婦像を描いたし、表現が執拗になるほど、彼の中に同時に内在する女性への羨望も感じてしまう。
ヴァロットン自身は厳格な家庭に育ったようで、欲望に対しての嫌悪があったのかもしれないと思う。
女性を熱望し家庭への理想を抱えながらも、冷めた目で世界を見ていた。

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胸騒ぎがするような作品がつづくなか、ほっとするのがヴァロットンの浮世絵コレクションや、それに影響をうけた作品たち。

作者は不明だけど、江戸の庶民を描いた漫画があった。焼き鳥を炭であぶっている店の主人、着物のすそをまくしあげる男、碁をさす二人、澄まし顔のお代官さま。(記憶を頼りにしてるので描写は正確ではないかも)活き活きとした江戸の人々をユーモラスに描いたその漫画には、ヒューマニズムが溢れている——少なくともヴァロットンの目にはそう映ったんじゃないかと思った。

ヴァロットン自身、版画作品で群衆を描くことを好んだ。
そこには彼特有の批判性や皮肉があったりするのだけど、民衆を主人公に、どこかユーモラスでリズミカルにパリの街を描こうとしたのには、作者不詳の一枚の浮世絵に通ずるのではないかと思った。

浮世絵にはしばしば猫が登場する。ヴァロットンも娼婦と猫という組み合わせをいくつか描いている。そういうのを見ると、浮世絵の遊女と猫のようだなあと思えておもしろい。


いろいろ感想をもったけれど、いちばん好きな作品は「月の光」という作品。
月明かりに照らされた雲が川面に映って、金色の穏やかな光を感じられる。

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展示室をでると、廊下のガラスのむこうは秋の気配がただよう中庭。
向かいのガラス張りのレストランが視界にとびこんできて、どきっとした。
ヴァロットン展を見たあとだと、他人の私的な空間がとても生々しく見えた。

もしかしてそこまで計算にいれてのこの建築設計…? そんなはずないのに、そんなことまで考えてしまう。そんな、美術館ごと楽しめた美術展でした。

展示室は少し涼しいので、ストールを借りれる。

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今週末はホキ美術館のイベント、建築探検に申し込んだので、朝はやくから出かける予定。
遠そうだしきっかけないと行かないなあ、と思ってたら、素敵なイベントが絶賛参加者募集中だったので、つい勢いで。

秋は見たい展示会がいっぱいあるので楽しみです。(財布の紐をかたく締めながら)