日々帳

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[感想]国宝「紅白梅図屏風」と琳派展 | MOA美術館

梅の季節に熱海のMOA美術館に行ってきた。
年に一度、尾形光琳の国宝「紅白梅図屏風」を展示しているとのことで、足を運んだのはちょうどその時期。
連休がてら遠出して美術館にでもという程度のものだっただけに、幸運だったと思う。

 

熱海 MOA美術館 ムア広場/紅白梅図屏風(CGによる復元品)
熱海 MOA美術館 ムア広場/紅白梅図屏風(CGによる復元品)

行く前に、BSの梅特集の番組で「紅白梅図屏風」が取り上げられていた。番組いわく、尾形光琳の描いた図様的な梅の花は、後に”光琳梅”と呼ばれ、着物や陶器などに取り入れられて江戸で人気を博したのだという。
光琳が江戸時代のデザイナーと評されることがあるゆえんは、そのあたりにあるのだろうかと思った。

ピカソが偉大なのは、卓逸した素描力によって現実を分解させ、新たなルールのもとに世界を再構築していった点にある。そのとき絵画は三次元から自由を得た。それよりも遡ること200年ほど前、京都で絵師として活躍した光琳は、ちょうどピカソの成し遂げた”世界の再構築”に近いことをやっていたのではないかと思う。

梅のもつ一切はデフォルメされた形の中に集約される。屏風の中央を流れる水のうねりもまた、図様的である。対象が単純化され普遍性をそなえるとき、梅の花や水流は、古典文学的な(あるいは神話的な)意味性をその内にはらむ。
この梅や水流といった要素は、画面の中に大胆に配置され、その大胆な構成の中にあらたな世界がつくりあげられる。両端に配した二本の梅の木は、その全体像を画面の外にもつ。上方から押し迫るように流れてくる水流の勢いにうながされ、屏風の中の世界は、さながら見ている者の世界へも広がってくるようである。
この、今わたしが居る空間と、屏風の空間とがひとつづきになっている世界。  

 

尾形光琳:紅白梅図屏風(色紙)
尾形光琳紅白梅図屏風(色紙)

 

紅白の梅と、中央を流れる水流という構図については、いくつか解釈があるようだ。
老木の白梅、若木の紅梅。その間を流れる川は、情動のうねりのようであり、激流のごとき運命のようであり、また、老木と若木の間にたゆたう時の流れのようでもある。水流は天の川に見立てたのだとか、老木と若木を配して時間を超えた世界を描いているのだとか、梅の片方が光琳で片方が弟、乾山だとか何だとか
それについて、わたしたちは答えを推測することしかできないが、少なくともその光景は、目に映るままの風景ではなく、描き手の内側にある世界の表出であることは違いない。

対象を単純化して、その文化的意味の象徴とし、それらを意図的に配置することによって、ひとつ観念的な世界を作り出す。
現代においてその手法は珍しいものではないけれど、デザインという感覚の興りを目の当たりにするようで、感慨が深かった。

 

この作品の他に、琳派とよばれる流れに関わりの深い、俵屋宗達本阿弥光悦尾形乾山酒井抱一の作品も展示されていた。

光琳の弟で陶芸家である尾形乾山の作品は、数ヶ月前にメトロポリタン美術館展で見たアール・ヌーヴォーの作品を思い起こさせた。花や植物を表面に描くだけでなく、その有機的な曲線を装飾に取り入れたシルエットは、200年後に西洋でおこる美術運動の作品によく共通している。草花の瑞々しさをとどめながらも、自然そのものを象るあまりに、生活品としては鈍重さを感じさせる。アール・ヌーヴォー期の作品を目にしたときと同じ感想を抱いて、数百年を経てつながる二つの芸術に思いをはせた。

アール・ヌーヴォーの元が日本にあるということは、誰かがはっきり述べていることではないようだ。印象派アール・ヌーヴォーがおこった19世紀末から20世紀初頭、国際博覧会で日本の工芸品がヨーロッパに紹介され、日本的な趣味趣向はジャポニズムと呼ばれた。その背景から、日本の美術様式が西洋に受け継がれる流れが想像できるにすぎない。
 ただ、その想像は、明治にシカゴ万博に行った日本人画家が、フランスの工芸品を見て「乾山写がある」と驚いたのと近い感動によって、呼び起こされるものなのだ。

尾形乾山の作品には自然と密接に生き、その中に哲学や人生観を写し見てきた文化の深みをひそませている。
アール・ヌーヴォーに見る自然観というのは、自然と共生してきた文化ゆえのものとは少し違って、自然へのあこがれが造らせた美術品という感じがする。どちらに優越があるというのではなく、乾山には日本のとらえる世界観の深みがあるし、アール・ヌーヴォーの作品には、華やかで優美な印象がある。同じ自然をモチーフにしながらも、出発点に呼応した印象に帰結するのだろう。その違いを感じるのもまた楽しい。

 

来宮神社:大楠(天然記念物)
来宮神社:大楠(天然記念物)

富士サファリパークにいたリア獣
富士サファリパークにいたリア獣